3.傷を舐める

●の部屋に上がった。初めて来たが、●の優しい匂いがする。色合いは白を基調とした部屋で清潔感のある部屋だった。
俺はピンクのカーペットの上に座って、用意されたお茶を口にする。●は俺の隣に座ったまま何も話さない。視線は落ち込んだように落とされていた。

俺は、騙された男にそんな目を向ける●を見て複雑な気持ちになる。裏切られても、居なくなれば悲しむのか。
チリチリと俺の胸に嫉妬の炎がくすぶっていた。そして、思わず口を開く。

「あんな奴なのに、いなくなったら傷つくのか。」
「傷つくっていうか、少しショックかな。…そんな人だったのかって。」
「…。」
「まぁ、一ヶ月だけど、…付き合っていた仲だったからね…」

●は力なく笑う。付き合って1カ月。それなりに思い出があったはずだ。●は純粋にあいつを愛していたわけだし、どんなに最低な野郎でも失ったことには変わらなかった。

でも、そんな顔をして欲しくはなかった。あいつは、最低な奴だったんだ。俺が気づかなければ、今だって奴にいいように利用されていたっていうのに。

「憎いねぇ。」

俺は本音を口にする。

「あんな野郎でも、お前に思われているなんて、羨ましいよ。」

羨ましかった。俺ならもっと大事にするっていうのに。

俺はグラスを置いて●を見た。何かを伝えたくて、でもこんな時に伝えるもんでもない気がして、結果的に曖昧な伝え方になった。●は俺の言葉の意味が分からず、俺を見つめる。
でも、●は何かに気づき始めているようだ。俺をじっと見つめて、言葉を選んでから質問を投げかける。

「ニックスは、何でここまでしてくれたの?」
「…何でだろうな。」
「はは…変な質問だったね。ニックスは優しいから。ここまでしてくれるんだよね。」
「…それだけじゃない。」

首を横に振ると、●の肩を抱いた。

「え?どうしたの?」
「他の女なら、ここまで世話は焼かない。」
「ニックス? 」
「ただ、お前があんな奴に利用されていると思うと反吐が出た。お前は、もっと大切にされるべきだろ。」

●は驚いた目を向けた。そして、肩にのる俺の手を見て、すこし頬を赤らめる。

「あ、ありがとう」
「俺なら、」
「?」
「お前を泣かせはしないぜ」
「!…な、なに、どうしたの?そんなこと言われるとときめいちゃうじゃない…っ。」
「ときめけよ。」
「なっ!?」
「俺はずっと前からお前だけを見ていた。あんな奴より、俺の方がお前を想ってる。」

●の頬は赤らみ、目がせわしなく左右に動く。

「う、嬉しいけど、私、今日失恋したばっかりだしっ!…っていうか、みんなにロイドと付き合ってるなんて言いふらしちゃったし、でもニックスにときめいたなんていったら、…もうっ、何が何だかっていうかっ、なんか変っていうかっ、」
「落ち着けよ。」
「ぅ。」

明らかに動揺してパニックになっている●を見て、笑った。

「…ご、ごめん。すごくうれしいけど、今はまだ心の整理もついていないから、すぐに応えることはできない…ごめん。」
「じゃあ、返事を待つ。俺も勢いに任せて付き合わさせるのは嫌だしな。」
「…う、うん。」

クスッと笑った後に、もう一度しっかり肩を抱き寄せた。ひゃ!っと、俺の胸に倒れこむ●。

「だから、今日はこのくらいで勘弁してやる。」

耳元で囁いて、でももう少しだけこのまま●を抱きしめることにした。
●は耳まで赤くなって、大人しく抱きしめられていた。



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