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人生は何が起こるか分からない。予想だにしない、不思議な縁があるものだ。俺は貴族の令嬢の婚約者になった。
そのことが瞬く間に兵団内に情報が流れ、何人もの兵士たちからその真偽を確かめる質問をされた。その対応が面倒になり、公表するべきか迷ったが、彼女の受け答えを見て思うに、まだ公にしない方がいいと思った。

ねぇ、エルヴィン。お相手の女性はどんな人?
気になるのか?
もちろん、気になるよ!
そうだな。とはいうものの、お互いのことをそこまで知らない。俺たちは、互いの利益のために婚約をした。今はそれだけだ。
なんだ。好きで婚約した訳じゃないの?相手はそれでいいの?
相手の考えも確認した。彼女もそれでいいとうなづいてくれた。
そうじゃなくて!

廊下を歩きながら、ハンジは大きな声をだす。

相手の気持ちだよ!エルヴィンとそんな繋がり方でつらくないのかってこと!
辛い?どういう意味だ?
はぁーーもぅーー!…その人がエルヴィンのこと好きになったら、かわいそうじゃないか。エルヴィンは彼女から好かれたら、ちゃんと愛してあげられるの?
…それは、あまり考えていなかったな。俺たちが互いを…?
そうだよ!最初は好意が無くても、エルヴィンや彼女が好きになったら、お互い愛せるのかってこと!それができないのに婚約するなんて、かなり無責任だと思うけどね?

考えたことがなかった。俺が一回り下の彼女を愛する。彼女が一回り上の俺を愛する。俺たちが愛を育む…それができるのか、ということについては、何も考えていなかった。
考えていたのは、資金難の対応だけだった。

あのね、相手は年頃の娘さんだよ?いくら今まで結婚を避けていたからって、彼女は女性なんだ。多少なりとも、結婚に対して期待や幸せをとどめているはずだよ?
そうだな…俺は、考えが浅かったようだ。

朝から、悩まされる。しかし、ハンジの言葉はやはり力があり、その日の仕事をこなしつつも、頭の片隅で俺が軽率に提案してしまった婚約に対して深く悩んでいた。


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もうこんな時間か。

書類を書き終えて、顔を上げれば夜の9時。今日も執務室からほぼでていない。食堂さえ行けずに、気の利いた部下が食事を運んできてくれた。

こんなことが毎日だ。
ここから、彼女の屋敷に行けば、10時を回る。まぁ、立体起動を使ってはもう少し早く着くが、そんな私情でガスを使うわけにもいかない。

確かに。俺に夫は務まらないな。彼女が内地にいる限りは…。

彼女には失礼なことをしてしまった…のか?

上着を脱いで、シャツのボタンを外してソファーに横になる。

俺たちが結婚をしても、俺の生活は変わらない。仕事が増える一方だ。壁外で死ぬこともある。だが、それはそれでいいと思っていた。過去じょを縛ることもないから、こんな俺の方がむしろ好都合なのではないかと思っていた。
だが、それで本当に彼女は幸せになるのか?彼女を愛してくれる男がいるのなら、その男と生きた方が幸せなのではないか?

…俺は。何の配慮もなく…愚かなことを口にしてしまったようだな。

静かに起き上がり、時計を見た。9時10分。今から馬を走らせて早くて10時前には屋敷に着くだろう。

…もう一度話合わねばならない。





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