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あの日を境に、俺は彼女との触れ合いを大事にしていた。流石に連日会いに行くことは出来なかったが、長期的に会えないと予測できれば手紙を書いて近況報告をした。そうすれば、彼女も手紙を返してくれた。そして、俺の身を案じているのか、手紙に栄養価の高い食材やリラックス効果のある茶葉を添えてくれる。その包みを開ける時、俺の心は僕れていくのを感じていた。

また手紙交換?いつ結婚するの?
ハハッ。いつだろうな。

執務室のデスク。その一番下の引き出しには彼女から送られてきた手紙が入っている。特に理由はないが、そこに置いておきたかった。
それを目ざとく見つけたハンジは俺を茶化す。

ああ、そうだ。ハンジ。お前には礼を言わなければならない。
え?なんの礼?
前に俺に教えてくれただろう。彼女を愛し、彼女に愛される覚悟があるのかと。俺には盲点だった。その考えがなければ、彼女とここまで歩み寄ることは出来なかった。
フフ、ほーんと、エルヴィンらしいなぁ。まぁ、少しでも2人の距離が縮まる手伝いができてよかったよ。
…ああ。お前のお陰だ。
で、さぁ、相談なんだけどぉ〜。新しく巨人を研究するために、これくらいの場所と新しい被験体が必要なんだよねぇ〜?ねぇー?
……、検討しておこう。

今回ばかりは、すぐに却下する、とは言えないな、と特別配慮をしておいた。が、目を通す限り、残念ながら許可をできるものではなかった。


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もうこんな時間か。

風呂から上がれば、10時。睡眠前に彼女からもらった茶葉を淹れようと立ち上がると、窓から月が見えた。窓に近寄れば三日月が見えた。

ふっ…懐かしいものだな。

初めて彼女とお互いのことを話した夜が鮮明に思い出される。あの夜以降も会いに行ったが、やはり初めての夜はとても記憶に残る。
あの時、心まで人と触れ合えたことを実感した。それは、少し躊躇いがあるものの、孤独を忘れさせるあたたかいものだった。

…寝ているか。

彼女の顔が脳裏に浮かび、自然とテーブルの上にある手紙に手が伸びる。昨日届いた手紙だ。返事は書いていないが、できれば近いうちに屋敷に向かいたい。
なんども目を通した文だが、また目を通そう。その手紙に移るあの青いバラの匂いを嗅いで、彼女がこれを庭で書いたのだと予測する。

…内地か。遠いな。

早馬で1時間。休暇があれば、時間を気にせず過ごせるのだが、今は難しそうだ。

…君が、ここに住んでいれば会えるのだが。流石に、貴族を呼ぶことは出来ないか。

1人呼べば、何人来るのか。モーガンは来るだろうか?心配性のご両親も来るのではないか?
少し困るが、あの両親らしいから、あり得る。

それに、なによりも、彼女を、巨人を知らない彼女を、この場所に呼ぶことがとても不釣り合いに思えた。兵舎は泥臭く、緊張感と微かな死が染み付いている。
彼女が住んでいる世界は、無限の時間と裕福で華やかな世界だ。ここには呼べない。見せたくないものも多くある。楽しくもないだろう。

俺らしくはないが、少しは彼女の立場に立って考えた結果、やはり呼ばないことにした。




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