翌日。俺が選んだのは隣のクラスの可愛い顔した背の小さいぱっちり二重が印象的なテニス部の赤井さんではなく、同じクラスのおよそ女子とは言い難い言動が目立つみょうじだった。どうしてこうなった。疑問が駆け巡るが不思議と後悔はしていない。俺昨日結構スゴイこと言った気がするけどたぶんみょうじはそんなの1ミリも覚えちゃいないだろうから無かったことにしておく。これは単に興味本位だ。こいつに告白したという勇者を見ずに何を見ると言うのか。


「いらっしゃ……わ、マジで来た」
「帰った方がいいなら帰るけど?」
「滅相もございません、お席へご案内しますよお客様」


土曜日の夕方、部活帰りに駅前のファミレスへ入るとすぐにみょうじに迎えられた。貼り付けた笑顔で隅の席へと案内される。水と一緒に持ってきたのは小さいパフェ。分かってるじゃねーの。


「お待たせ」
「おー」
「食べんの早っ。残しておくとか無いわけ」
「無いネ」


程なくして私服に着替えたみょうじがやってきて隣に座った。呼び出しボタンを押してコーヒーを2つ追加する。そこでようやく目的を思い出したので、カウンターの奥へ目を向けてみたりホールに立つ男を見てみたり。けどまぁ名札なんか見えやしないわけで。


「おい、どれだよ佐々木」
「キッチンの中にいる」
「なんだよ、見れねーじゃん」
「任せろ」
「何を」
「佐々木ィ!」


いや呼ぶのかよ。店ん中でンなでっけぇ声出すなよ何考えてんの?


「なまえっ!と、誰?」


しかし応じるこいつもこいつだがな。呼ばれるやいなやコーヒーを2つトレンチへ乗せて足早にテーブルへやってくる。みょうじへ向けた笑顔と正反対の表情で俺を見下ろす佐々木。つーかなまえって、名前呼びかよ。


「これが例の彼氏の花巻………花巻くんです」


彼氏役頼むんなら下の名前くらい知っておいて欲しかったよね。


「……俺あと1時間で上がりだから、待ってて」


あからさまに不機嫌オーラを振りまいて戻っていく佐々木。こいつのこと好きとか言うからどんなエイリアンかと思いきや普通にイケメンじゃん。言いたかないが及川並みだ。


「なんだよアレ、想像と全然ちげぇ」
「なにが」
「見た目とか」
「どんなの想像してたのか謎」
「何処高?」
「あー、確か南台だったよーな」


はぁ?超頭いいとこじゃねーかよ。


「お前の目はフシ穴か」
「何いきなり爆裂失礼なこと言ってんの?禿げるよ?」
「いやあんなイケメンで頭いいやつの告白断るとかお前何様なの?」
「えっ、格好いい?!あれが?!花巻目ぇ腐ってんじゃないの?」
「お前がいうか」
「断然花巻の方が格好いい」


は?……はあ?昨日もそうだったけど、こいつ俺のあんな一言には顔真っ赤にするくせにこういうことサラッと言うのなんなわけ?聞いてるこっちが恥ずかしいわ。


「南台って部活がそもそも存在しないらしいよ。勉強に心血注げばそら頭も良くなるでしょーよって感じ」
「そうですか」
「それに比べたら花巻なんてイケメンだし強豪バレー部のレギュラーだし頭もそこそこだし、どっちと付き合いたいかって言われたら9割が花巻選ぶよね」
「…ソーデスカ」
「話も楽しいし、最高じゃん」
「……お前なんなんだよっ?!」
「何キレてんの?あ、なんか地雷だった?」
「ちげーよバーカ!お前俺のこと殺す気かって言ってんだよ!?」
「褒めてんのに?!あ、褒め殺しってやつ?」
「うまくねぇから!」
「貶されるよりいいだろーが!んな顔真っ赤にして怒ることかよ!」
「怒って赤くなってんじゃねぇわ!」
「ますます意味わかんねぇ!なんなのアンタ!」


俺の方が意味わかんねーよ!なんでお前の言うことにいちいち赤面しなきゃなんねーんだよオカシイだろ。


「悪いなまえ、待たせた」
「まぁ待ってないけど、ってかもう一時間経ったの?嘘でしょ?」
「店長にあげさせてもらった。暇だし」
「あ、そう」


いよいよ周りからの視線が痛くなってきたなという頃に佐々木がやってきた。俺とみょうじと向かい合うように座り、じっとりとした目で俺を見る。敵意むき出しかよ。俺そういうことされると楽しくなっちゃうけどいーの?とは言えないので大人しくしておいてやろう。


「で……、そっちの、ナニ巻くんだっけ?」
「花巻」
「あーそう花巻くんね」
「俺に何か?」
「うん、君が彼氏だって聞いたんだけどさ、俺のなまえの」
「「お前のじゃねぇ」」


俺のだと?冗談も休み休み言えよ?……おいおい俺は何をムキになってんだ。いやしかし待て落ち着け、仮だろうがなんだろうが今はこいつの彼氏ってことだから反応としては間違ってねぇよな。うん。演技だ演技。それにしてもこいつの折れねぇ心もすげえな、見ろよみょうじのこの顔。年齢制限つけれるぞ。こんなののどこが良くて告ったの佐々木は。


「ハイハイ、いいんだよハナマキくん、なまえに合わせなくて。どーせ断りたいから今日だけ付き合えって言われたんでしょ?」


oh。グゥの音もでないってやつだな。


「……みょうじ、諦めろ」
「ち、違うし!」
「へー、違うの?」
「ほ……ほん………………」
「え?聞こえないよなまえ」
「本気!……だって、言って…た、し…」


お前、ここでそれ出してくんの?ねぇ。忘れてねぇのかよ。つか覚えてて断らなかったってソレはつまり、そーゆーことだよな。しかし昔の人は茹で蛸なんて上手いこと言ったもんだ。目の前のこいつは茹でたてほやほや、鮮度100パーセントの赤さである。


「そんなの、俺だって本気だ!」
「お前はムリ」
「なんでだよ!」
「宇宙の法則かなぁ」
「そんな法則あるわけないだろ!」
「宇宙は無限大なんだから探せばあるんだよ色々と」


かと思いきや対佐々木に関してはマッハで切り替えができるらしい。さっきまでのみょうじは何処へやら。しかしなんだ、知ってしまったら止められないというか、いじらずにはいられないというか。淡々と佐々木の言葉に返事をしていくみょうじを頬杖つきつつ横から眺める。コーヒーに落とした視線がこちらへ向けられ、ようやく目があった。


「………なに」
「お前さあ」
「なんか文句あんのか」
「可愛いね」
「……ひゅ…っ」
「なにそれ」


なんかみょうじから変な声聞こえた。普段アホなことしか言わないしバカみたいにうるさいし暴言吐くしで手に負えないやつが、俺の言葉にだけこんなにも動揺して赤面するなんて、可愛がらずにどうしろというのか。他の選択肢があるのなら教えてほしい。あったところで選ばないけど。


「まっ、こーゆーことだからサ」
「どーゆーことだよ?!まだ話は」
「こんな顔お前にはさせらんねーんだから、俺の勝ち。つまりこいつは俺のモンってこと。オーケー?」

ハロー、
アイラブユー