単純な話だ。イライラすんのはなんでか、あいつが佐々木と帰ってたから。じゃぁそれをやめさせればいい。どうやって?そんなん、俺が行けば済む話だろ。


「いらっ……なにしに来た」
「お客に対して言う言葉ー?教育なってないんじゃなーい?」
「ようこそお越しくださりやがりましたお客様、あちらへご案内いたします〜」


部活を終えてソッコー着替えて誰よりも早く部室を出た。轢かれるなよ、と松川の言葉を背中でうけて夜道を走る。本気出したら21時より10分早くファミレスについたので、息を整えてから店内へ入る。あの時と同じように、出迎えてくれたのはみょうじだ。



「ご注文は何にしやがりますか?」
「コーヒーで」
「つーかアンタほんとに何しにきたの?」
「練習早く終わったし、暇だから帰り送ってやろーと思っただけ」
「まじか。シュークリームはないよ?」
「お前は俺のことなんだと思ってんの」
「シュークリームモンスター」
「やめて、最強にかっこ悪い」


すいませーん、と他の客に呼ばれた為会話を切り上げて去っていくみょうじをジっと見つめる。練習早く終わったってなんだよ。終わってねーよ、全力疾走したっつーの。


「お待たせいたしました〜コーヒーでございまぁす」
「可愛くない。チェンジ」
「そうか。いいんだな、チェンジで。あたしが季節限定イチゴパフェを持ってきていてもチェンジでいいんだな」
「太っ腹!愛してるよなまえチャーン」
「頭からかけてやろうか」


些か乱暴に置かれたパフェをロングスプーンでつついていく。なんだかんだ言ってサービスしてくれるからみょうじはいい奴だ。アホだけど。携帯片手に生クリームとアイスを頬張って、半分ほどなくなったところでそういや前もこんなんあったなと思い出した。彼氏のフリして来てくれって言われた土曜日。あん時はミニサイズのチョコパフェで一瞬にして食い終わったっけ。残しとくとかしないわけ、って言ってた気ぃする。


「お待たせー」
「んー」
「あれ、これ嫌いだった?」
「なんで?」
「全然食べてないじゃん」
「お前も食うでしょ?」
「えっ」
「…ナニ」
「今日ホントどうしたの?熱?熱あるの?」
「失礼ってお前のためにあるよーな言葉だよね」
「お褒め頂き光栄ですぅ」
「黙れ」


制服に着替えて隣に座ったみょうじの口に大量にすくった生クリームを押し込んで黙らせた。半ば無理やり突っ込んだ所為か、クリームが口の周りやら鼻の頭やらについてしまっている。ダメだ、その顔で睨まれてもギャグにしかならない。


「歯に当たったよスプーンが。折れたらどーすんの」
「差し歯だな」
「マジで返すのやめて」
「ハイハイ痛かったでちゅねー、よしよーし。お口の周り綺麗にしてあげまちゅよー」
「あーウザーい。触んなバカ、自分で拭けるから!」
「結構な有様だけど」
「誰の所為だよ」
「俺」
「自信満々に言うのがまたね、ムカつくポイントだよね」
「お褒め頂き光栄ですぅ」
「黙れ」


なんかデジャヴ。って思ったときには遅かった。まふ、っとした何かが鼻にあたり、その衝撃に思わず目を閉じた。くっそ、やられた。つーかコイツもう口狙ってなかったよね。完全に鼻狙いだったよね。


「食べ物で遊ぶんじゃありません」
「手が滑った」
「そんな古い言い訳通用すると思ってんの?」
「まぁまぁ怒りなさんな、そんな顔で」
「誰の所為だよ」
「あ、た、しっ」
「チェンジ」
「生クリーム鼻に乗せて真顔な花巻くんゲットー」
「おい何勝手に撮ってんの」
「変顔コレクションに追加しておくね」
「やめろ消せ」
「ムリ」


ムリ、じゃねぇよ。携帯を奪おうと手をのばすもアッサリ避けられる。身を乗り出した所為で案外接近してしまっていることに気づいた。その瞬間に熱を上げる体は固まってしまって動けなくて、みょうじが振り向いてもなおそのままだった。


「あっは、やばいね。顔中白い水滴まみれ」
「そう思うんなら拭け」
「はいはい、ちょーっと待ってね〜」


冗談で言ったつもりがどうやら本気にとらえてしまったらしい。水の入ったグラスにペーパーを入れてぬらしてから鼻を拭き取るその動作に女子を感じた。それから自身のセーターの袖で手をかくし、そのまま両手で俺の顔を覆った。散らばった水滴を拭うように縦に横に動かしてからパっと離れ、暗闇の次に現れたのは松川の言っていた「笑うと可愛い」みょうじだった。


「はい綺麗ー」
「…」
「え、なに。怖い。なんか言って」
「お前ほんとアホ」
「顔面生クリームだらけにしてやろーか」


折角拭いてやったのに、と眉間に皺をよせて前をむくみょうじの両頬を下から指で挟み無理やりこっちを向かせた。人の顔拭いてる場合かよ。


「ちょっと手ぇ放して、いますっごいマヌケな顔んなってるって」
「鼻」
「なに」
「まだついてるよ、生クリーム」


どうしてこんなことしたかは分からない。ただなんていうかホラ、俺って甘いの好きだから。生クリームが目の前にあったら、食べないわけにはいかないじゃないですか。舌先のクリームは今日イチ甘い。

甘くて
刺激的で
甘いの