おやすみ、花巻くん

ぽつん。まさにそんな感じだ。一人って、こんなに寂しいもんでしたっけ。少しくらい一人にさせてくれと思うほど賑やかな日中を過ごしている所為でそれが普通になってたからだろうか。広い部屋のど真ん中、あたしの布団だけが敷かれている。



「消灯だよー。お前ら布団に入りなさい」
「なんだろうな、及川に言われると意地でも入りたくないというか」
「なんなのマッキー反抗期?」
「くだらねぇこと言ってねぇで寝るぞ。明日も早ぇんだから」
「言い方ひとつで変わるってことだなー。おやすみ」
「待ちなさいまっつん、聞き捨てならない」
「及川うるさいよー。早く寝てよー」



当たり前のように、3年の部屋に布団を敷いてみんなと寝る気満々だった。思春期の男女が同じ屋根の下云々はあたし達に通用しない。まぁあたしが貴大と付き合っていることを皆知ってるからだろうが、それを抜きにしたってこいつらがあたしを襲うとかそういうことは頭が禿げるほど考えてみても想像つかない。面白半分でドキドキしちゃう?って聞いたら、うーーーーーーんってめちゃくちゃ唸ってた。松川は腕組んで首かしげてたし岩泉は眉間の皺が深くなりすぎてたし、及川はもはや考えるの放棄して欠伸してた。さすが安定の君達って思ったけどなんか何処か空しいのは何でだろう。彼氏であるやつまでもがうんうん唸りながら考えてたからだろうか。おかしいでしょ。ごめん、あたしが悪かったねと謝ったら皆ホッとしたのかいそいそと布団にもぐりこむ。少しイジけながら同じように布団に身体半分埋めたところでガチャリと戸が開いて、溝口君が驚いた顔してあたし達を見ていた。



「何やってんだ名前は」
「え、寝るんです」
「アホか、お前の部屋はアッチだよ」
「え?」
「女子用の部屋ひとつ空けてあんだよ。布団持ってコッチ来い」



掛け布団をはがされ、敷布団も引き抜かれごろんと床に転がった。いつまでそうしてる、溝口君はめんどくさそうに言ってさっさとあたし用の部屋とやらへ歩いて行ってしまった。そして今に至る。ゆっくり寝ろよ!とドヤ顔しながら突き立てた溝口君の親指をへし折ってやりたい。寝れるか馬鹿野郎。



「ね、む、れ、ない、よー」



午前0時。ハードな練習をこなした選手達はとっくに夢の中であろう時間、未だ眠れないあたしは貴大にラインを送る。読まれないことなんて分かっているけど、なんとなく寂しさを紛らわしたくてそうせずにはいられない。なんて悲しいやつ。あたしもそれなりに仕事して疲れてるはずなのになあ。全然眠くない。物音1つしないこの空間は結構不気味だ。そういえばなんかこの前友達が見た映画がこんな感じのシチュエーションだったよな。旅館の広い部屋に一人っきりで寝てたら声が聞こえてきて、目開けたら血まみれの女の人がいたとか。助け呼ぼうと思っても声が出なくて、固まってたら足首掴まれてずるずる引きずられて………あぁ、これ完全に自爆したパターンだ。もう駄目、目閉じれな い。怖いよ怖すぎる。なんつーもん見てんだあいつ。大して面白くなかったとか言ってたけど絶対嘘だろ!ほんとは怖くて夜眠れなくなったろ!だってあたし見てないのに話だけでこんな怖いもん!もー誰でもいいから起きてよー!グループトーク騒がしてよー!通知ならせよー!ぎゅうっと枕を抱きしめて布団の中でまぁるくなった時、ビロンと比較的大きめな機会音が聞こえて体が盛大にビクついた。こえーよ!なんだよ!



『まだ起きてんの?』



なんだよとか言ってごめん!さすが…!さすがあたしの彼氏!頼りになるよ貴大くん!!



「眠れない…」
『俺は眠い』
「ごめん…いいよ、寝て」
『そーする』



うん、そうだよね。ごめんごめん。君は眠いよな。こんなのに付き合ってられないよネ。まぁいいよ。どうせあと三日間の我慢だ。そのくらい、大して寝なくたって乗り切れるし、頑張ろう。これ以上付き合わせるのも申し訳ないので、返事はせずにアプリを閉じた。この夜さえなけりゃ楽しい合宿だったのに。溝口君の馬鹿。呪ってやる。彼女にさっさとフラれてしまえ!悪態をつくと同時に再び鳴る携帯。だから怖いってば!今度は誰だよ!



『眠い、』
「寝ていいよ?」
『うん、なら早く開けて』



え。携帯を見つめたまま動かずにいると、コンコンと控えめなノックが聞こえてきた。なにコレどっきり?空けたら血まみれの女とかいないよね?大丈夫だよね?恐る恐る取っ手に手をかけゆっくりと開ける。その向こう側にいたのは、今にも寝てしまいそうな顔した貴大だった。



「え、なんでいるの?」
「眠れないっつったのお前じゃん」
「いやそうだけど…」
「はぁーあ。早く寝よーぜ、俺もうダメ」



あたしの横を通りすぎ布団へまっしぐら。あっというまに潜り込んでしまった貴大が、早くしろと視線で投げかけてきたので慌てて隣に横になる。抱き枕よろしく腕を回され抱き寄せられると、頭の上からあっという間に寝息が聞こえてきた。あたしは今度は違う理由で眠れなくなっているのだけれども。こんな、合宿中に、貴大と二人きりで一緒に寝てるなんて。なんだかいけないことしてるみたいだ。ドキドキなる胸に落ち着けと言い聞かせ、ぎゅっと目を閉じた。すぐ近くで聞こえる規則的な呼吸音が段々気持ちよくなってきて、眠気がじわじわ襲ってくるのが分かる。さっきまで全然眠れそうになんかなかったのにね。小さくあくびをしてからあたしも意識を手放した。




おやすみ、花巻くん。




「ねぇ、俺ここで暴れていい?」
「やめとけ、先生来んだろ。さっさと起こして朝飯行くぞ」
「いいじゃん!こういうことするやつは怒られればいいよ!!」
「とりあえず写メっとこ」
「どーすんだよそんなもん」
「え?先生に見せられたくなきゃ飯奢れ的な」
「まっつんが一番怖い」