どんとむーびんぐ!(8)


この星にある電磁牢は、複数の電流が不規則に鉄格子の表面と内側を巡るものだ。脱走しようと触れた者を焦がし、機械生命体の内部をウィルスと電流でショートさせ機能を低下させる。サイズはいろいろあるが、大抵はトランスフォーマーに合わせたものであり、現在収容されている有機生命体【ニンゲン】には広すぎた。
…柵の間隔が広いのだ。
そこで俺がオプティマスプライムに任命され、中に入り監視する事になった。のだが。

「ポリポリポリポリポリポリ」
『……』

なんだこれは。





牢に入った当初背中を向け退室する上官達を見つめていたこの生命体は、しばらく牢の中をぶらつき、自分と会話を試みたが、自分が相手にしないでいると今の状態になったのだが…。


「ポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリポリ」

自らの身体の一部を体内に納め続けている。…何が目的だ?

「ポリポリポリ、バキッ!」
『!』
ギュィッ…


しまった。‥先程と違う音に思わず反応してしまった。


「…?」


手を止めた小さな生命体は此方を見つめて首を傾げている。
しかし顔まで目線を上げない。いや、届かないようだ。
それよりも。



『なぜ……』
「?」
『自分の身体の一部を体内に納めている』
「……"くせ"でしゅ。気晴らし、みたいなものでしゅ」

自分の身体を傷つけるのがか!?

『…痛くはないのか?』
「…!だいじょうぶっ!ありがとうにいに!」

"ありがとう"

『いや…簡単に損傷する肉体でも、存在するのは理由があるはずだと考えただけだ』
(つーか"にいに"って何だよ)


自分は疑問を尋ねただけであって、礼を言われることはしていない。

【ニンゲン】が言うには爪を噛んでいたらしい。…たいして痛みは感じないらしいが、そんな脆い部位が武器だと自身の兵装は貧弱だと考えないのだろうか?
こんなのでは戦えないだろう。

まだなにか隠し持っているなら別だが。

とにかく自分が話しかけたことにより(何故だか理由は不明確だが)態度が変わった生命体は爪を噛むのを止めた。

しかし。




「ひまじゃー!!」
『うるさいな』
「はいすみません」

渋々黙ったが、また爪をいじりだした。

「…」
『…噛むなよ』
「…うん」

また静寂。

「……うるさくしにゃいにゃら、声出してもいい?」
『黙り続ける選択肢は無いのか』(なんなら俺が黙らせてもいいが)


俯いた【ニンゲン】が言う。

「…だって、黙ってると暗いことばかり考えちゃうし、地球と違ってこの星は宇宙が目前で。怖い」
『機械生命体には恐怖心は抱かないが、広大な宇宙には恐怖するのか…ならさっさと逃亡すればいいだろう』


この俯いている【ニンゲン】には、その気になれば行動に移せる能力がある。テレポート能力だ。
それは太古の先祖達が使ったという、そしてキューブが含む能力の一部と酷似している。そしてそのキューブはここから離れた厳重な、そして我等トランスフォーマーにとって神聖な意味合いのある場所に安置していたはず。










【ニンゲン】が触れる機会など、無い。

有ってはならない。











上官達はキューブの存在の有無、状態を調査、確認に向かった。
もしキューブに異変が確認された場合、コウダシエンを尋問、場合によっては手段を選ばず原因を調査する手筈だ。考えれば自分が危険にさらされることは分かるはず。それなのに顔を上げたこの存在は。



「オプとメガトロンしゃんと、ラチェ先生と、どきゅたーと…青いフサフサしたおじちゃんと約束したもん。ここで待ってるって」
『何だそれ』
「約束は守るものだよ!」


そんなことは知っている。


「それにね、どうやってきちゃかも分かんないもん…逃げ方なんてわかんにゃい」
『……は?』

迷いこんだだけだと言いたいのか?
有り得ない。

『じゃあ…、出ないのか?』
「うん」
『看守の俺が出してやるって言ってもか』

この生命体はどこかおかしい。普通初対面の輩と重要な約束や契約は結ばないだろう。

大抵こう言うと牢の中の連中は媚びへつらった態度を取ったり、情報提供の代わりに便宜をはかれだのと抜かす。コイツもそうだろう。口では何とでも言える…どこでキューブと酷似した力を手に入れたか聞き出せば、コイツにはもう用はない。会話する必要性もなくなる。俺はコウダシエンの顔を見つめ反応を探る。













俺の誘いを受けろ。

















「オプが戻ってきて、出ていいよって言っちゃりゃ出る!」
『…!』


断言しやがった。
一体何なんだこの【ニンゲン】は!



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