あすにはわすれるおはなしのひとつ(3)



「ラチェ?」
『おーい』
『……何だ』
「だいじょぉぶ?」
『ぼーっとしてたぞ』
『あぁ…』

私は現実逃避していたらしい。
おずおずと自分を見上げる二人になんだか妙な感覚を覚える。

『心配をかけてすまないな。大丈夫だ』
『「よかった〜…あ」』
「ジャズ、真似しないでにょ」
『ごめんにょ!』
「噛んだんだにょ!」
『ドンマイだにょ!』
「もーっ!ジャズ!!」
『ははっ怒んなって!』
『ふっ…』

二人のじゃれ合いに思わずくすりと漏れた排気。

(私も絆されたか)

と、考えていれば…いつの間にか室内が静かだ。
彼等の方を見れば、私を見て固まっていた。

『どうした?』
「ラチェが…」
『笑ったぁあああ!!』
『「イ゛ェア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」』
『Σビクッ』

発生回路がイカレそうな声を出して室内を動き回りだした二人。
そんな、二人の種族の違いをものともしない動きを苦笑いしながら見ていたら。

「あ」
『あっ!?』
『『「あああああああああああっ!!?」』』

その場で高速回転していたジャズがうっかりコウダシエンを指の隙間からこぼした。
反射的に手を伸ばしたが自分の指先は彼女に届かない。

(このままでは扉に衝突する…!)

私は強く床を蹴り、彼女に飛びつき手の中に包んだ。
壁に背を向け衝撃に備えれば。

『おいラチェット…ぅおお?!』

甲高く、凄まじい衝突音が室内に響く。

(聴覚センサーがショートしそうだ。)

『二人とも、だっ大丈夫か!?』
『あぁ』
「…」
『シエン?』

彼女からの返答がない。
握りつぶしてしまったかと、急いで手の中を覗いた。

「…」
『シエン?損傷は、無いな。大丈夫か?』
「!…ふふふっ!うん。大丈夫だよ。ありがとう、ラチェ」
『……損傷が無いならいいんだ』

手の中で、その柔らかいボディを点検していれば笑顔で礼を言われ、何だか落ち着かない。
私は体勢を変えようと身体を動かした。

『ラチェット』
『…おや。いたのかアイアンハイド』
『いただろっ!…まったく、俺を椅子扱いしやがって』
『いやぁ、なかなかな座り心地で』
『いい加減どけ!』
『分かった分かった』

急かされたがわざとのんびり彼のボディの上から立ち上がる。

『で、何のようだね』
『オイ』
『冗談だ』
『えーっと…二体は知り合いなのか?』
『知り合いというか…』
『『腐れ縁だな』』

話せば長いと呟けば、ジャズとシエンは話を聞きたいと言い出し。アイアンハイドがリペア台に腰掛け話し始めた。

(話が長くなるぞ…)

なんせ普段話し相手がいないからなぁ。
強面のフェイスパーツと教官としての厳しさのせいで。

『何勝手にくつろいでいるんだ』
『なぁに。怪我人が来たらすぐ移動する』
『…仕方ないな』
『エネルゴン酒は』
『無しだ』
『チッ』
『そんなにリペア台と仲良くしたいかそうかそうか』
『わ、悪かった』
『よし』

ふと聴覚センサーが微かな音を拾った。

「ふふふっ」
『…オイ』
『ちょっ、シエンッ!』
「ごめんよ…だって、あははっ!」
『『『…』』』
「どんな怖いトランスフォーマーかと思ってたら、全然良いトランスフォーマーなんだもん!」
『確かにコイツのフェイスパーツは強面だ。幼体が怯えてオイル漏らすくらいだ』
『ええっ!?』
「あははははっ!マジか!やべぇ!!」
『…』
『マジ?』
「本当に?って意味」
『やべぇとは?』
「やべぇはね…気持ちがすごく良い時ときとか悪い時とか…感情の起伏が激しいときに使うんだよ」
『『『なるほど』』』
「危ない時も使う」
「異なる場面で使用機会があるのだな」

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