宇宙旅行はうたた寝のうちに(3)
「これから行く
「……うるさいよぉ」
「「「あ」」」
「誰だアンタ」
「此方、沙希…でしゅ」
「で、でしゅ?」
寝ぼけて舌足らずになった沙希にガクッと肩の力が抜ける面々。
「彼女は悪行超人に襲われて怪我を負ってしまったので、治療のために乗り合わせたんです」
「そうなのか……」
「まぁボクちゃんが倒したんだけどね〜」
途端にむっとした表情になるキッド。
また部屋の空気が険悪になる。
「俺がその場にいたら、彼女にこんな怪我させやしなかった!」
「なんだと!」
「どうせビビッて碌に技を決める事が出来なかったんだろう!」
「うるさいやい!見ても無いのに決め付けないでよ!」
「ハッ!どうだか」
「ぐぬ〜っ!」
一触即発になると思った途端。
「万太郎君」
「あっ…うるさくしてごめん」
身体を起こした沙希が宥めるように万太郎に声をかける。
「ちょっと」
「ど、どうしたの?身体痛いの?」
「君も」
「え…?」
「来てくれますか?」
そして何故かキッドにも。
うろたえるキッドだが、穏やかに手招きされ、渋々起き上がった彼女の傍らに腰掛けた。
むっとした万太郎も張り合うように反対側に腰掛ける。
「金髪君」
「キッドだ。テリー・ザ・キッド」
「はじめましてキッド君。そしてごめんね。私記憶喪失なの」
「なっ!?」
「だから、皆の親がすごいとかすごくないとか分からない。もし嫌な思いさせたらごめん。超人さんだって多分初めて見たし、パンツ穿いて無いのに平然としてる超人さんもいたからこの世界の常識も自信が無い」
「パッ…そ、そうなのか?」
相手を慮る気持ちはあるのだろう。
自分の父親のことを知らないという彼女の話を、キッドは静かに聴いた。
そしてキッドも、自分の父について、以外にも穏やかに話した。
「きっとテリーさんはすごかったんだろうなぁ」
「あぁ。パパは技も知識もすごいんだ」
「残念だなぁ。盛り立てたってことは二人の親はタッグを組んでたんでしょ?このままじゃ万太郎君とキッド君二人のタッグは見れないんだろうな」
「「誰がこんな奴と!!」」
途中までは。
沙希は軽く二人に話を振ったが、第一印象が悪かったのだろう。噛み付くように否定の返事が返ってきた。
頭を抱えるミートとその他の面々。
「そ、そんなに嫌?」
「NOだ!」
「やだね!」
「でも一人じゃ限界があるよ?協力しなきゃ勝てない時もあるだろうし」
「誰がこんな奴と協力なんて!」
「こっちこそ!」
「……じゃあ、勝負する?」
「え?」
「サキさん!?」
「何をいきなり」
「大丈夫。被害の少ないものにするから。ルールと判定は私が決めていい?超人さんの活躍とか人気って、結局地球の人達の評価もあるからさ」
その言葉に二人は頷いた。
どんな荒事になってしまうのかと心配する周囲をよそに、沙希は二人の膝を横断するように身体を横たえた。
頭から腰に掛けては万太郎の膝の上、尻から脹脛はキッドの膝の上。
目配せに気づいたミートが落ちていた沙希の毛布を彼女に掛け直す。
驚くキッドと万太郎。
「サキさん!?」
「勝負には忍耐力も必要だよ?」
「そうだが、これに何の関係が」
「ヘラなんちゃらに着くまでおとなしく、静かにしていたほうの勝ちね?じゃあおやすみ」
「ちょっ」
「スヤァ…」
「「早っ!?」」
二人の手を握ってあっという間に寝てしまった沙希。
怪我人が膝の上に乗っていては、プロレス技どころか無闇に立ち上がれまい。見事な無血開城である。
呉越同舟の二人はソワソワと落ち着かない。
それは相手が気に食わず暴れたいという気持ちが理由ではなく。
((や、やわらかい…!))
抱き込まれた手、相手に預けられた足など、成人女性の柔らかい部位が自分の身体に密着していたせいだった。
押し退けるわけにも行かず。
二人はその感触を堪能しながら、アンドロメダ星雲のレッスル星に存在するヘラクレス・ファクトリー(別名:超人養成施設「正義超人養成大学校」)に着くまでそのままの体勢で耐えるのだった。