浅き縁でも(5)
「みんな頑張ってるなぁ。バッファ先生、地球を守ってくれそうな実力のある超人は、この中にいますか?」
「まだ初日だから断言はできんな。まぁ、今後も鍛錬は続く。結果はその時に分かる」
「そうですか……このまましばらくの間訓練を見学してもいいですか?」
「あぁ。だが体調は大丈夫なのか?」
「彼女は全身打撲に右腕の骨にヒビが入っている」
「……ちょっと用事を」
「バッファ先生まで!?」
ロビンマスクの言葉を聞き両手の指をごきりと鳴らしたバッファローマンに沙希は驚いた。正義超人なのに怖すぎだろうと。
「だ、大丈夫ですよ!歩けてるし!超元気ですから!そんな"悪魔"みたいな恐い顔しないでください!」
「「「!」」」
「バッファ先生は笑ってたほうがカッコいいですよ」
「…そうか?」
「イエス!ダンディ!」
「なんだそりゃ」
冗談めかしたおかげか。なんとか機嫌がよくなったバッファローマンに沙希は胸を撫で下ろした。
「疲れたら近くの岩に適当に座っているので、気にしないでください」
「辛いなら椅子を用意するが?」
「いえ、皆が頑張っているのに一人だけ楽はできません」「…無理はするなよ?」
「はい」
話が決まったところで訓練は再開することに。
訓練が再開すると知り、万太郎ががっくりとうなだれた。
しかし、彼女のために訓練の流れを一時的に止めていただけなので、話が終われば再開されるのは仕方のないことなのだ。
「みんなー!頑張ってね〜!」
(彼等の邪魔にならないようにしないと…)
沙希は訓練生全員に声援を送ると、まばらにだが返事が聞こえ、ほっとする。そして訓練は再開。一人、また一人と燃え盛るサンドバックに向かっていく。沙希はその光景を眺め、一人ため息をついた。
「なんでだろう…」
何故。
「どこか懐かしくなるんだろう?」
懐かしくも暖かい。そんな出所の分からない気持ちを沙希は持て余していた。
「よし、さすがだなテリー・ザ・キッド。次、お前だ」
「あ、万太郎君の番だ」
考え事をしているうちに順番は進んでいたようで。万太郎の番が回ってきていた。
「えぇ〜!やだよこんなの…蹴ったら熱いじゃないかぁ」
「何言ってるんですか二世!熱いから特訓なんですよ」
燃えるサンドバックを前にしてごねる万太郎。肌に感じる熱と炎の勢いで怖気づいてしまったのだろう。
「まったく…貴方のお父上なら、こんな訓練『へのつっぱりはいらんですよ!』って軽くこなしたはずですよ!」
「嘘だぁ〜!あの父上が?んな訳無いだろ」
「二世!!自信を持ってください。あなたはあの、キン肉マンの息子なんですよ!」
「そんなこと言ったって、火は熱いよぉ」
うだうだと喋っている二人に痺れを切らしたのか、バッファローマンの怒号が飛ぶ。
「ごちゃごちゃ言ってないで、早くやらんか!」
「はっ、はいぃ!」
「バッファ先生、迫力すごい…」
その声量と低い声は、関係の無い沙希までもビビらせた。
「熱そうだけど、しょうがないか」
万太郎はぼやきつつもサンドバックに向き合い。
「えい」
ちょん、と蹴りを入れた。
遅い速度のせいで足先に火が燃え移るのにそう時間は掛からなかった。
「おわああ!あちゃちゃちゃっ!」
見る見るうちに火達磨になる万太郎に沙希は叫ぶ。
「地面に転がって消火して!」
「あちゃちゃちゃ!ふぅっ〜…」
彼女の指示通りに万太郎は地面に転がり、火はすぐに鎮火した。
「大丈夫?」
「う、うん…」
「馬鹿者!蹴りが遅いから熱いんだ!火傷したくなければ、テリー・ザ・キッドのように素早くキックしろ!!」
「へっ!馬鹿な奴だ!」
キン肉マンを恨んでいると言っても過言ではないキッドは、万太郎の姿を見て嘲笑し、サンドバックに蹴りを入れ続ける。その素早い蹴りは、教官であるバッファローマンに、キッドの父親であるテリーマンの姿を彷彿とさせた。
しかし。
「俺はパパとは違う。常にナンバーワンにしか…ナンバーワンにしか、ならない!」
華々しい試合の功績が残らなかった父親への怒りか。威力のこもった蹴りは、サンドバックを吊るしていた鎖を砕けさせてしまう。
拘束するものの無くなったサンドバックは、蹴りの勢いを受け、座り込んでいた万太郎、そして彼の身を案じて前に立っていた沙希へ向かって飛んでいった。
「危ない!!」
「え?」
「どわぁああ!?」
ミートが叫ぶ声に沙希が後ろを振り向くが、すでにサンドバックは避けられない距離にあった。
間近に迫る凄惨な未来に固まる訓練生達。彼女の元に向かう教官達だが、もう間に合わない。