浅き縁でも(7)


医務室。

「…」
「…」

ゆっくりと椅子に座らされた沙希は脳内で誰に届くかも分からないヘルプを求めていた。
ほとんど強制連行に近い形で運ばれた彼女は顔を覆っている。

(だって姫抱きで校舎内歩き続けるんだもの)

廊下で会ったウォーズマンの同僚と思われる超人には冷やかされ、指摘されるまで気付かなかった彼は医務室に着き沙希を座らせると煙を出して停止する始末。

(だから言ったのに…せめておんぶにしてくれれば)

「えっと…名前何て言ったっけ?この黒いおにいさん」

とりあえず向かいの椅子に座らせ、清潔なタオルを濡らし彼の頭に乗せてみるが、勢いよく水蒸気が立ち昇ったため止める。

「駄目だこりゃ焦げる。しばらく待つか…あ、鞄此処にあったんだ」

先程ラーメンマンが入れてくれたお茶を見つけ二人分のお茶を入れる。

「これでよし、と」
「…ハッ!?」
「おはようございます」
「お…ござい?」
「はい。とりあえずお茶飲んで落ち着いてください」
「コ…コーホー」
「?」

お茶に手を伸ばしたウォーズマンは何故か途中で止まる。沙希は理由が分からず困った。

「お茶、嫌いですか?」
「い、いいや」
「えっと…あぁ!毒入れてないですよ!」
「コ、ブフォッ!?」

慌てたように何か話そうとしたウォーズマンが盛大に咽た。
げほげほと咳をする彼の背中を慌てて擦り、手の中でミシミシ音を立てていた湯のみを避難させる。

「大丈夫ですか!?これ取りますよ!」
「…!駄目だ!」
「え?あ」

呼吸が苦しそうなウォーズマンを心配し、表情を見るために彼女は仮面を外してしまう。
慌てたウォーズマンが彼女の手首を掴んだがもう遅い。
普通の人間の顔が現れると思っていた沙希は固まった。
仮面の下にはパネルや配線など、機械の部品と人間の眼球や筋繊維がどういうわけか共存し鎮座していたからだ。動きが止まった沙希を見て、ウォーズマンは手の力を抜いた。

「…」
(見られてしまった…記憶の無い彼女に)

キン肉マン達仲間のおかげで、自分は顔のコンプレックスを乗り越えることができた。しかし、その中には“彼女“もいたのだ。今の彼女は記憶が無い。もし拒絶されたら…以前尋ねた時は無理をしていたのではないか。
暗い思考にウォーズマンが囚われ始めようとした時に沙希は叫んだ。

「きゅ、救急車ぁあああああ!!」
「!?」
「おにいさん仮面外してごめんなさいぃい!死なないでぇええええ!!」
「え?!」

子供のように泣きじゃくりウォーズマンを抱きしめた沙希は怪我をしていると思ったのだろう。必死だ。

「うえぇーーーわぁああああん!!」
「だ…大丈夫だ。俺はロボ超人だから」
「ぼろとゆぅじん?」
「ロボ超人。機械と超人が半分ずつ含まれている超人なんだ(ボロ…)」
「はんぶん?」
「そう。これは身体の一部だ。露出を避けているだけだ。怪我じゃない。安心してくれ」
「ヴん…分かった……両方あって良いとこ取りな超人さんなんだね」
「!……そう、かな?」
「うん。勝手に仮面取ってごめんなさい。おにいさん」
「俺はウォーズマン。本名はニコライ・ボルコフだ」
「え?どっちで呼べばいいですか?ボルコフさん?」

落ち着いた彼女からの、逸らされること無く自分を見つめる視線に、人知れずウォーズマンは浮かれた。
素顔を見られて、今のように落ち着けるなんて。

(記憶を失っても、彼女は彼女だ)

「君の好きなように」
「!」

声色に出ていたのだろう。
ウォーズマンの放つ穏やかな雰囲気に、沙希はやっと笑顔になれた。