一人舞台の上でも二人、三人(3)


「命の危険だぞ?もっとこう……キャーとかイヤーとか悲鳴あげるなり逃げるなりしろよ」
「いや自分記憶喪失で。今びっくりのほうが勝ってるみたいです。悲鳴、悲鳴か…えーと、ちょっと待ってね?ゲホッゲホッ!きゃーっ、わーっ!」
「ひどい棒読み!!?」
「やめろ。分かったから。人質に気ィ使われるってどうなの……ヒェッヒェッ、アイツは邪魔だったからふん縛って宇宙船の倉庫に置いてきたぜ」
「なるほど。本物が出てきたら混乱するもんね」
「のんきに会話してる場合ぃ〜!?」

話の流れを取り戻そうとする悪行超人アナコンダとおしゃべりを始めた沙希に万太郎は頭を抱えた。
彼の狙いは万太郎だ。
万太郎が逃げ出さないために人質と明言されているのに、彼女はいたって普通そうな態度だ。

「そ、それにボクなんて馬鹿で運動音痴で…殺したって何の得にもならないっすよ?」
「お前の親父にもそう言われながら、我々の先輩旧世代悪行超人は全滅させられた!」

万太郎の言葉に、どんなに馬鹿でも手を抜かない。と断言するアナコンダ。

「こんな馬鹿でもぉ〜?」
「げぇっ!?」
「ウフフ、馬っ鹿で〜す!」
「あははははっ!」

いつの間にか女子高校生の制服に着替えた万太郎の頭には、おさげのカツラと小さな旗にかかれた馬鹿の二文字。

「く、口紅まで塗ってる…ふふふっ」
「どこから出したんだアイツ」
「ガゼル君隣にいれば完璧だなコレ!」
「あぁ、鹿だから?」
「そう」
「「おーーいおにいちゃーん!!」」
「誰がお兄ちゃんだっ!?」
「「「アハハハハッ!!」」」
「ロビンマスク先生まで…(ガクッ)」
「そういう訳で」
「「また会いマッスル〜www」」

そうは問屋が卸しません。
誤魔化し去ろうとする万太郎と沙希の背にアナコンダが手を掛ける。

「…ハッ!逃がすか!」
「うわぁ!?」

首根っこを掴まれ引き倒された二人に周囲から焦りの声が上がった。

「もぉー!どんだけ戦いたいのさ!」
「言っただろう。キン肉万太郎を倒すのが新世代悪行超人の目的だと!」
「じゃあそれが達成されたら?」
「…は?」
「もし私が万太郎君を倒したら納得して帰ってくれますか?」
「「え」」

唖然とする万太郎とアナコンダの二人。

「サキさん!?」
「何を言ってるんだ!」
「だって代わる代わる悪行超人が来て、しつこくない?先輩がどうのこうのって舎弟か何かなの?誰かが倒せばアンタ等それでいいんでしょう?」
「…」
「彼には彼の人生があるんです。いい年した男共にケツ狙われ続けて過ごすなんてかわいそうじゃん。YOU、ここで一回負けちゃえよ」
「えぇ〜!?……サキさん。い、痛くしない?」
「大丈夫。優しくするよ」

手を握り万太郎を見つめる沙希に冷静なツッコミが入った。

「「いや、まず人間が超人に勝てるわけ」」
「やんのかゴラァ゛」
「す、すいませぇんっ!」

彼女の鋭い眼光が訓練生を怯えさせ、アナコンダはその姿に呆れた。

「じゃあアンタから始末するか」
「茶番でも駄目かぁ…いや、リングの上だから試合でしょう?」
「何言ってるんだよサキさん!」
「止めておけ。死ぬぞ」
「止めるのは貴方のほうです。一人で伝説超人レジェンドもいるH・Fヘラクレス・ファクトリーに来て…勝てると思ってるの?住み良い場所を求めて土から出たはいいけどコンクリートの上で干乾びてるミミズじゃあないんだから。考えれば分かることです」「俺の行動が自殺行為だと?」
「はい。それに、友達置いて逃げるくらいなら死んだほうがマシだ」

言い終わるのが早いか、金属音が響き彼女の体は大きく弾き飛ばされる。
勢いそのまま金網に叩きつけられた沙希は、口の端から呻き声と血を漏らしながら意識を失った。