一人舞台の上でも二人、三人(4)


「サキさん!」

マットの上に倒れた柔らかい身体はピクリとも動かない。

「さぁ!かかって来い!」
「分かった、よっ!」

ブラッドキラーを倒したキン肉バスターをかけようと万太郎はアナコンダの胴体に抱きつこうとした。
しかし、アナコンダは機械仕掛けの下半身を伸ばしたため胴体にたどり着けない。
技をかけられず生まれた隙に、アナコンダの鋼鉄の尾が迫る。

「魔女鞭の嬲り打ち!!」
「ぐぁああ!」

ロープに追い詰められ何度も攻撃を受ける万太郎。周囲からも苦痛の声が上がる中。

「おい、アナコンダ!」
「ん?」
「俺と戦ってくれ!俺はテリーマンの息子、テリー・ザ・キッドだ!俺は頭脳だって、運動能力だって、万太郎の上だ!」

キッドが万太郎の代わりに戦うと宣言。
悪行超人を倒した実績が欲しいという理由だ。

(ひどい言い様だな。面白すぎて腹筋もげるわ)

こっそり気絶から復活した沙希は、彼の言葉でこみ上げた笑いを静めようと歯を食いしばる。
万太郎は今だキン肉バスターがかけられず、敵の攻撃にさらされている。
皆、正義超人とは何たるか、気にすらしていない。

「子供だな。お父さんのことばかり気にして。キン肉王家3つの心得を音読し、て…」

(あれ?漫画で読んだっけ?…なんで私、正義超人のこと知っているように考えた?)

「心得?心得その1は確か…“穏やかな道と茨の道があれば、茨の道を進め“」
「…え?」
「サキさん!?」
「まさか!」

気絶から目を覚ました沙希に気付いたリングの外にいる面々は、頭を押さえ立ち上がろうとする彼女に驚きの声を上げた。

「その2?は、えっと…」
「お、おいアンタ!安静に」
「キッド君ちょっと黙って!!今なんか思い出しそうだから!」
「えっ」

何故親や出生のせいで対立する正義超人を見てムカムカしていたのか。
自分には関係無いことなのに。

「キッド君。“いかなる戦争においても自分のために戦うな 人びとのために戦え“」
「!」
「2位だろうがビリだろうが、君のお父さんなら、そうするよ」

最後の一つ。
それを思い出す頃には、彼女はその足でしっかりと立ち、前を見据えていた。

「“正義超人から友情を除くということは、この世から太陽を除くことと同じ。そんな暗黒の世に超人界を絶対にしてはならぬ“」
「さっきからなんだブツブツと!」
「ぐぁあ!」
「…先人の貴重な教えだよ」

リングの外に視線をやると、岩陰に目が行く。
沙希は安心したように一度笑うと、自身に迫っていたテイル・チョップを見もせずに躱した。

「なっ…!?」
「何ぃ!?」
「軌道が一定だし、組み付かれさえしなければ人間だって避けれるわこんなモン」
「…、このっ」
「あぁーお腹空いた!万太郎君」
「へぇあ?!」
「早く終わらせてカルビ丼食べよう?」
「…うん!」
「舐めるなクソがぁああ!!」
「蛇の蒲焼って食べれるかな?」
「うげぇ」
「はいしゃがんで!」
「おわぁっと!」

気持ちに余裕が出てきた二人は雑談をしながら攻撃を避ける。
その様子を、フェンスから弾かれたキッドは傷を押さえながら見ていた。

「なんで、なんでアイツ等が戦って…」
(俺は、こんなところで見ているんだ)

「酷い傷じゃ。早く手当てをしなければ。痛むじゃろう」
「あ、アンタは…」

フードを被ったその人物は、懐から出したバンダナでキッドの傷の手当を始める。
迷いの無い手さばきにキッドは慣れを感じた。
ファクトリーの医師だろうか?
しかし、彼の考えは、バンダナのサインとフードの人物が落とした写真で吹っ飛ぶ。
その写真では、キッドの父テリーマンとキン肉マンが、大きな優勝トロフィーを手にしていたからだ。

「そ、その写真は!?」
「この写真は、テリーと一緒に出場した宇宙超人タッグトーナメントで優勝した時のものだ」

一人の時も、ユニフォームの左胸に入れて戦うことで辛い戦いも乗り越えることができた。
テリーマンが、一緒に戦ってくれているようで。
友のくれたバンダナと写真は、彼に戦い抜く力をもたらしていた。
キン肉星第58代大王、キン肉マンに。

「本当のナンバーワンは、君のパパさ」

その言葉に、キッドは涙を流した。