寝起きでは何やられても余裕が無い(1)
「一体どういうことだ!」
「わ、分からんが…」
「ええい!議論してる場合か!」
「早く持って来い!」
(うるせぇ)
夢見も寝起きも良いとは言いがたく。
眉間に皺を寄せ、サキは唸り声を上げた。
ピタリ。
その声と身じろぎひとつで部屋がシンとなる。
(え?なにこの居心地の悪さ)
沙希はゆっくりと寝返りを打ち。
何拍か後、一気に起き上がった。
「「「今だ!!」」」
「っ!?」
世界は白に染まった。
「どういうことですか?」
「え〜っとだな。落ち着t」
「簡潔に5文字で」
「火事でした」
「ファイヤー」
「消火器使用」
「で?」
「この始末…」
消火器の煙がもうもうと舞い、治まり切っていない中。
正座し膝の上に分厚い辞書を何冊も載せられている大人が二人いた。
「まったく。ウルフマンさん、と…?」
「じぇ、ジェロニモだ」
「初めましてジェロニモさん。もうちょっとマシな格好の時に会いたかったです。こんなスケキヨマスクじゃないときに」
「す、すまないズラ」
「よかろうなのだ(ズラ?)」
しゅんとした大人達をなでなでして彼等がズラじゃないことを確認し、白髪にし終えたサキは。
「一時間そのままね」
「「え!?」」
足首を電気コードで厳重に縛ると一瞥もやらず出て行った。
彼女は、まだ怒っていたのだ。
しばらく走った後、静寂に包まれた誰もいない廊下で気配を殺し、歩を緩める。
「鏡はどこだ。まずここは何処だ」
なぜ火事だったのに自分が消化剤を寝起きにかけられなければいけないのか。
火元にやれ、火元に。
パイに塗れたような顔は息がしずらくて。
(寝起きドッキリにしてはやりすぎだろう…初っ端からあのノリなら身体がいくつあっても足りなくて正義超人と飲み会とかできねえな)
「お腹空いたぁ…血糖値下がってきたかなぁ」
沙希は廊下に並ぶ柱の陰に腰を下ろし、冷たい感触を背にハンカチで顔を拭った。
消化剤と共に化粧も取れてしまったが仕方がない。
そこまで気を遣っている余裕は無いのだ。
「早く行かなきゃ」
(万太郎君とカルビ丼が…)
しかし沙希は立ち上がらない。
「…万太郎君すごかったな。悪い人を真っ二つにしちゃって。やっぱりやれば出来る子なんだよ」
(でも、怖かった)
人体が傷つき、破壊される様を思い出し、体が震える。
万太郎が勝って嬉しい。
キッドの怪我も少なく済み、他の超人たちに被害は無かった。
それなのに不快感が纏わりついているようで、沙希は何かから隠れるように体を丸め蹲る。
「ちょっと、疲れた……」
こみ上げる不快感とキャパオーバーな現実から逃げるように、彼女はそのまま眠りに着いてしまった。