爪先からハロウィンマーブル(6)
「そういえば、沙希さんはオーバーボディに興味があるらしいですね。H・Fの職員に話を聞きました」「え?あぁ…悪行超人の大きな身体が、オーバーボディで変装した時にすごく小さくなってて」
「そうだったんですね。見慣れていないと驚くことでしょう。今回のハロウィンは一般人もオーバーボディが体験できるブースを用意しているんですよ」
「えっ!?」
(何それ見たい)
好奇心に押され、沙希は手を上げて答えた。
「それ、見たいので仮装の受付やります!」
「ありがとう。時間があれば貴女も体験するといい」
「やったー!」
数時間後、沙希は忙しさに逃げ出したくなった。
今回のイベントは、来場者の数が尋常ではなかった。
さすがというべきか、超人レスリングの人気の高さが伺える。
「安請け合いするんじゃなかった…アカン。人多すぎ」
「お姉さん!ちょっと〜!」
「はい!ただいま参りますーー!」
通常の仮装の他に漫画やアニメのコスプレをする人がおり、それにオーバーボディを用い、より本物に近いものにしている。
(やってみてぇ…人多くて触る時間すら無い)
「ありがとうございまーす!」
「はい。レンタルした衣装またはオーバーボディは、イベント終了後、退場するまでにスペース内にお戻しください」
「分かりました!」
超人委員会が目玉企画として押し出している仮装パレードは、東●ドームシティの都市型総合エンターテインメント地区で行われ、仮装すれば施設内のアトラクション・宿泊施設などが割引される。
また、仮装している指定の超人レスラーからスタンプを集めると限定グッズがもらえるため、参加者が多い。
多すぎて当初委員会が準備していた着替えスペースに人が入りきらなくなるほどに。
「他の場所も大変なんだろうな…」
数万人もの氏名が書かれた貸し出し名簿に眩暈を起こしそうになりながら作業を続ける。
今回雇われたバイトはコスプレをして業務をしていいことになっており、沙希は貸衣装で魔女の格好をしていた。
人が多く熱気で室温が上がり、汗が流れそうになるのを拭う。
結局夕方までの勤務のはずが、夜7時まで延長し、開放されたのはパレードが始まる7時ギリギリ。
「お腹すいた…ねむい…」
コスプレしてるであろう知り合いの超人達を冷やかしにいこうかと沙希は考えていたが、疲労はピークに到達。
仮装を着替え、近くの売店で買った復刻版残虐ラーメン(焦がしにんにく醤油味)を休憩場所で食べると、そのまま寝てしまった。
目が覚めた時、会場は悲鳴と逃げ惑う人々でパニックになっていた。
「え!?」
眠る前の楽しそうで愉快な空気は掻き消え、子供の泣き声や怒声が幾重にも反響していた。
沙希は近くのベンチに蹲る男の子に、そっと声をかけた。
「ねぇ」
「ヒィッ!?…あっ」
「恐い目に遭ったんだね、もう大丈夫」
「ぐすっ、うわぁあんっ!」
宥めた後に事情を聞き出すと、パレードの最中に悪行超人らしき集団が乱入し、暴れだした。
伝説超人レジェンドや新世代超人ニュージェネレーション達が倒しているのだが、数多く侵入したために、まだ全員捕まっていないとのこと。
「頑張って逃げたんだね」
「うん!でも、妹とはぐれちゃって…」
「そうか…写真とかある?」
「え?う、うん」
「わあっ、かわいいね!」
「チエの格好、不思議の国のアリスなんだって」
「へぇ〜、チエちゃんって言うんだ」
「うん!」
妹を褒められ嬉しいのか、少年に笑顔が戻る。
「君は迷子センターに行って、チエちゃんの帰りを待ってて。最後に一緒にいたのは何処かな?」
「え?えっと、えっと…メリーゴーランドのところ!」
「分かった。お姉さん、超人の友達とチエちゃんのこと探してくるから」
「ほんと?!」
「うん。だから、ちゃんと迷子センターで待っててね?」
「分かった!」
妹の捜索を約束した沙希は、足早に休憩スペースを後にした。
(悪行超人らしき…仮装でもしてたのかな?)
(本物かと思っちゃった…)