未染められし者(4)


「ぁイテテ…うん?」
「!」
「えっとぉ……こんにちわ?」
「こ、こんにちわ。あの、大丈夫ですか?」
「はっ、はぁい!大丈夫でぇっす!ボクちん超元気!」
「そうか、よかった」
(すごい衝撃だったけど元気そうだ)

人懐こそうな笑顔に沙希はほっと胸を撫で下ろし、彼の笑顔につられて、ここに来て初めて笑った。
しかし、二人でひとしきり笑いあった後、彼女は気づく。

「…ってあぁ!?」
「え?何?どうしたの!?」
「お、お弁当が砂まみれに…」
「へ?」
「今日の晩御飯……ぐすっ、うぇえええん」
「えぇ!?ぼ、ボクのせい!?…だよね」

目の前に墜落し、土ぼこりにまみれた彼女と手に持っている弁当を見た彼は、困った顔をした。

(ボク、お金持って無いや)

「ご、ごめんね。本当!わざとじゃ無いんだ!」
「うん…っわ、分かってるよ」
「あ、ウン」
「今日は散々だなって思ったら、悲しくなって泣けてきちゃったの」
「そんなに嫌な日だったの?誰かに怒られたとか?」
「あはは、ちょっと違うかな」

沙希はここまでの経緯を全て話した。

「気がついたらこの公園にいるし、ここに至るまでの記憶は無いし」
「えぇっ!?お姉さん記憶喪失なの?」
「うん…たぶん。今のところ自分の名前以外分からないの。お金使うとか常識はちょっとあるみたいだけど。交番に行ったらイタズラって決め付けられて、話も聞いてもらえなかったんだ」
「なにそれ!ひっどぉい!!」
「…ありがとう」
「へ?」
「こんな嘘みたいなことを信じてくれるなんて」

私の代わりに怒ってくれてありがとう。
頭を撫でながら沙希は言う。
きょとんとした顔で彼女を見た彼はまた笑った。

「だって嘘じゃないんでしょ?」
「うん」
「大変だったね」
「うん」
「頑張ったねお姉さん」
「うん…ありがとう。君は良い人ね」
「へ!?」
「美醜問わず損得関わらず。他人にやさしくできる若い子って最近なかなかいないよ?こんなに小汚くて子供みたいに泣いてんのに君は優しくしてくれた。それってすごいことだよ」
「そ、そうかなぁ?」
「うん」
「でもボク、勉強もできないし。マスクは豚面だし…」
「どんなにイケメンでも性格悪い人はいるよ?君の顔は愛嬌あって私は好きだけど…」
「ぎゃ、逆ナン?」
「え?……あぁ!未成年に手出したら逮捕されちゃう」
「きゃああ食べられるぅ〜!お持ち帰りされちゃう〜!!」
「あははははっ!」

照れ隠しにふざける少年に沙希は手を差し伸べた。

「話聞いてくれてありがとう。おかげで元気出たよ。恩人さん、君の名前を教えてくれる?」
「ボ、ボクはキン肉万太郎!お姉さんの名前は?」
「私は此方沙希です。よろしく、万太郎君」
「う、うん!」

握手しながら沙希は思う。

(キン肉マンって…あのキン肉マンだよね)

生きていけるのだろうかと。