埋め隠す涙(2)

「話変わるんですけど、何でさっき同じ部署の中嶌さん話しかけてたのにほったらかしにしたんですか?」

中嶌とは週刊HEROの同僚で、ナツ子や名前に気さくに話しかけてくる男だ。
しかし、飲み会になると途端に悪酔いして誰これ構わず絡んで迷惑をかけまくるので、二人の認識はめんどくさい奴で固まっている。

「あぁ、中嶌?あのね…名前ちゃん」
「ふぁい?」
「中嶌のみならず富田と小峰も気ぃ付けたほうがいいわよ。皆名前ちゃん狙いだから」
「………は?」

同じ部署の人間の名を指折りしつつ挙げられ、名前はドン引きした。

「な、なんでですか?皆さんと業務以外であまり話したこと無いんですけど…」
「お見合いのドタキャンの件、お局が部長に聞いて周りにリークしちゃったの。名前ちゃんがおモテになるのが嫌だから、恥かかせてやろうって魂胆なんでしょう」
「は、はぁ…?でもドタキャンだし、モテた覚えはこれっぽちもないですけど」
「気づいてないだけよ?まぁそんなことより仕事しろや!って感じなんだけど。お局の予想外なことが起こっちゃったのよ!」
「予想外?」
「名前ちゃんがフリーだってことで独身男共が狙い出したのよ!!」

私の可愛い後輩が!と箸と共に拳を握るナツ子は、同僚達が隙あらば名前に声を掛けて接触を図ろうとしていたことに気づき、連れ出してくれたのだ。

「し、知らなかった…」
「でしょうね。仕事に一生懸命取り組んでるから完璧アウトオブ眼中なのに。…ねぇ、何でお見合い断ったの?」
「え?だから自分の時間とか、仕事がしたくて」
「それもあるんでしょうけど。それならお見合い相手に直接言ったらいいでしょう?お見合いにどうしても行きたくない理由があったのかなって」

流石敏腕記者といったところか。目の付け所がいい。
彼女は頬っぺたに米を付けながら続ける。

「私は、本当は好きな人がいるんじゃないかって考えたんだけど。どう?良い線行ってる?」
「……好奇心は猫をも殺すって言いません?」
「私はほら、テリーがいるから大丈夫よ!」
「確かに」

頬を染めながら幸せそうにのろける彼女を、名前は眩しそうに見つめた。

「………誰にも言いません?」
「え?」
「私の秘密。父にも言ってないんですから」
「…えぇ。場所を変えましょうか」

雰囲気が変わったことに気づいたナツ子は、会計を済ませると牛丼屋から出る。
断る間もなく奢られてしまった名前は、無言で彼女の後ろをついていく。
人気の無い路地で、名前は重い口を開いた。

「好きな人は、います」
「やっぱり!」
「でも、悪いことをしてた超人です」
「え…」
「世間一般でいう、良い人ではないんです」
「ち、ちなみにその人の名前は…?」
「悪魔六騎士のザ・ニンジャ」

ナツ子は目を見開いて固まってしまった。

「ウォーズマンの体内での戦いから気になっていて。王位争奪戦の取材は風で飛んでいった原稿用紙を彼に拾ってもらったから書けたようなもので」
「へぇ〜!」
「会った時死ぬかと思ったけど、案外話してみると穏やかだし笑顔で冗談だって言うし。自分のこと記事にしてもいいよって仰ってくれて…」
「そ、そうなの?」
「はい。信じるかはお主次第だ──と。あと、その時私迷子だったので、ベルリンのメインストリート近くまで案内してもらいました。で、リングの外ではこういう人なんだとその時知って」
「だから王位争奪戦の試合の時応援してたのね!」
「は、はい…あの人は、あの人なりの誇りとか考えを持っていると分かったから。本当に、生き返ってよかった…」

そこまで言うと名前はため息をこぼした。

「でも、駄目なんです」
「え?」
「ドタキャンされてしまいましたし、調停式の後って、あっ。これはオフレコだった…」
「面白そうな話をしているな」
「!?」

名前とナツ子の二人が振り向くと、そこには見たことの無い超人が立っていた。