埋め隠す涙(3)
「大変興味深い。調停式…?──正義超人と悪魔超人と完璧超人との不可侵条約でも結ぶのかな?」「…」
「どうなのかな…?」
「申し訳ありませんが守秘義務がありますので。失礼します」
ナツ子と名前の前に、砕かれたコンクリート塀が降り注ぐ。行く先を完全に塞がれる前に、名前はナツ子の手を引いて走り出した。
「何なのよアイツ〜ッ!」
「もしかしたら、反対派の超人なんじゃ?」
「反対派??」
「はい。悪魔超人や完璧超人は欲望のまま暴れられなくなるし、正義超人は大義名分で力を振るえなくなる」
「正確な調停式の日取りを知りたくて…だから記者の私たちを?」
「たぶん…ナツ子さん。助けを、テリーマンを呼んで来てください」
「分かったわ!名前ちゃんも一緒に」
「それはできません」
「え?」
そう言うと名前はナツ子とは反対の道を選び叫んだ。
「知りたいなら、この鞄の中を見るんだな!!」
「ほう…それか!」
「名前ちゃん!?」
既に彼女は路地の遥か向こう。
ナツ子は名前が逃がしてくれたことを理解し、急いで助けを呼びに走った。
「はぁ…はぁ…………っ…!」
「何処に隠れたのかなぁ〜〜…」
人通りの少ない場所を選びながら走り続けた結果、名前は工場跡地に息を潜め隠れていた。
しかし、それは相手にバレているらしく。彼女が怯える様を楽しむかのように声をあげながら近づく超人の足音と気配。
カランカラン
「そこか!」
「ッ!」
鉄パイプが転がる音。追手の超人は名前から情報を聞き出し嬲るため、嬉々として距離を詰めた。だが、
「シャーッ!」
「?!」
いたのは野良猫。
ひとしきり威嚇した後立ち去るそれを見送り、ハッとして振り返る。
古びて放置された工場は埃が積もり、足跡が残るのだ。
彼女の痕跡を探そうとした超人は、鉄パイプがうず高く積まれていた場所に近づき、意識が暗転した。
「終わったでござるよ、名前殿」
「に、ニンジャさん…!」
「おっと」
鉄筋の天井の梁上。そこに二人はいた。
恐怖に震える名前を見つけ出せたのは全くの偶然の産物。キン肉ハウスに寄り道すると言い出したキン肉マンがいなければ、テリーマンと世間話をしていなければ。
ナツ子と行き違いになり、今の状況が成立しなかっただろう。目に涙を浮かべ、必死に息を潜める名前を見つけた時。ザ・ニンジャの腸は煮えくり返った。
あの状況ではどんなに穏便に此方から声を掛けても悲鳴をあげさせるのが目に見えていたため、背後から彼女に近づき、口を塞ぐと一気に天井の梁に二人で飛び上がったのだ。
怯え暴れる名前を梁から落とさないよう、落ち着かせるためにと肩を掴んだ時、ザ・ニンジャは名前の気持ちを知った。
「嫌っ!!ニンジャさん…助けてっ…!」
目を瞑ったまま助けを求める彼女の姿に、ザ・ニンジャの心臓はみっともなく騒いだ。
平常心を装い追っ手にバレないよう名前に呼び掛けると、やっと名前は彼を認識した。
「ニンジャさん?ゆ、夢…?」
「確かめてみるか?」
「えっ?あっ…!」
他の悪魔超人から比べると小柄に見えるが、しっかりと鍛えられた身体が名前を包む。
手裏剣の飾りが目の前に来て、初めて名前はザ・ニンジャに抱き締められていることに気づいた。