紙の叢雲(3)

ザ・ニンジャは、固まる名前を見下ろした。
悪魔超人としてキン肉マン等正義超人と戦ってから暫く経つが、未だに人に会えば怯え、逃げられる。

(此度もそうだろう)

彼は静かに相手の様子を観察した。

「あ、の……拾ってくださりありがとうございます。ザ・ニンジャさん」
「!?」
「仕事で使うので助かりました」

今度はザ・ニンジャが固まる番だった。
丁寧にお辞儀までするこの女子は、己の名を呼びながらも逃げ出さない。

「ザ・ニンジャさん?」
「!」
「大丈夫ですか?ぼーっとして…具合が悪いとか?立ち眩み?どうしよう…と、とりあえず座ります?」

いつの間にか接近まで許していた。

「い、いや。何でもござらん」
「本当に?」

背中を労るように擦られて、戦慄が走る。

(背後に手を回され、触られるまで気づかないだとっ!?)

ザ・ニンジャは、彼女に人心露わの術を使った。

『あ、目潰しされるかと思った。顔色悪いけど何かあったのかな?忍は怪我しても耐えるんだろうけど…どうしよう、超人って病院の保険効くのかな?』

敵意の欠片も無い心の内を聞いて、ザ・ニンジャは気づいた。本当に、彼女は己を心配しているということを。

「すまぬ、少し考え事をしていた」
「いや、こちらこそ。お一人の時間にお邪魔してすみません」
「紙は……あ」
「あっ」

彼の手に力が入ったせいで、原稿用紙はぐしゃぐしゃになっていた。

「…申し訳ない」
「だ、大丈夫です!それ白紙なので!」
「何?」

皺を伸ばし、原稿用紙を開いて見ても、その紙には一文字も記載がなかった。

「お主は、何故白紙をあんなに懸命に追い掛けていたのだ」
「……私、週刊HEROの記者で。キン肉マンチーム以外の取材を担当しています。他のチームは終わったんですけど、残虐チームだけまだで。その用紙には残虐チームの取材内容を書こうとしてました」
「ほう」

(何度も記者が来ていたとソルジャーが言っていたが、この女子がそうか)

「今回の仕事は、今まで任された取材で一番大きくて緊張してて…世間の人に、各チームがどんな人達なのか。どんな理想を持っているかを知ってもらうために必要なことなんです」
「しかし、白紙ということは」
「はい…取材、拒否されました」

目に見えて落ち込んだ名前に、ザ・ニンジャは少々気まずくなった。
(拙者がそのチームの面子であると知ったら、この女子はどう反応するだろうか?)

「どうしようと思って落ち込んでたら竜巻地獄みたいに強い風で飛ばされちゃって」
「泣きっ面に蜂ということか」
「はい。でも、握り潰されて良かったです」
「何故だ、お主の仕事が終わらぬだろう?」

そう言うと彼女は笑った。

「さっきは無理やり内容を書こうとしてました。でも今は違う。未来が白紙なら。自分で、皆が期待するような煽り文句書き上げなくちゃ。まぁ、気持ちの問題というか…嘘八百書くよりはマシという感じですけど」
「そうか」
「でも、ザ・ニンジャさんがベルリンにいるってことは…もしかして?」

きらきら輝く瞳に、ザ・ニンジャは口角が上がる。

「ご想像にお任せしよう」
「わぁああ!気になる!真実はいかに?!」
「はっはっは!」
「笑って誤魔化さないでくださいよ〜!」

仔犬のようにきゃんきゃんとザ・ニンジャの前で話す彼女は笑っている。
だからだろうか。ふと、言ってしまったのだ。

「今の気持ちを記事にすれば良いのでは?」
「え?い、良いんですか?」
「…全ては闇の中。憶測はすでに飛び交っておる。お主が何を書こうとも、いずれは真実が白日の元に晒されよう。好きにするがいい。もっとも、忍びの言うことを信用するかはお主次第だが」
「信じます」
「!」
「私のつまらない話、最後まで聞いてくれたんです。信じますよ、ザ・ニンジャさん」
「…そうか」
「応援しますからね!」

その言葉が真実だと知ったのは、特集として雑誌に載った後。
そして、王位争奪戦当日。涙に濡れる彼女の声は確かにザ・ニンジャに届いたのだった。