010

私たちは今度こそドクターに会うためにギャスタに向かった。だけどさっきからとにかく木ばかりでとても町があるようには見えない。

「おいビビ!ほんとにこっちであってんだろうな。魔女のいるギャスタって町は」
「そう言われるとちょっと自信ないんだけど」
「自信ないじゃダメじゃねェか。いいか!もしナミ達がやっとの思いで城に着いて医者がいなかったら何やってんだ!?ってことになるだろう!」

もう痛いところ突かないでほしいわウソップさん。文句を言ってくるのに代わってもらおうと思ったら断るなんて酷いわよ。

「頼りにならないなー、ウソップは。サンジくんだったら良かったのに」
「おい、あいつと比べんな!おれはおれで良いとこあるんだからな!」

そのまま話が逸れちゃいそうになったとこに割り込んで看板に注意してもらうように言うと2人とも黙ってしまった。

「スケート!スケート!」
「ドクターだろ、ドクター!」
「えー、スケートしたいー」

そんな会話を聞いているとソリが止まった。積雪が深くてヤギも走れなくなってしまったみたい。これだけ深いってことは山を登ってしまったのかしら。
立ち往生していると、どこからか地響きが聞こえてきてリリナさんが風が冷たくなった、と呟いたのが聞こえて血の気が引いたのを感じた。もしかしてこれって……雪崩だ。徐々に大きく、近づいてくる地響きの音を背中に感じながら一目散に走り出した。どうして雪崩なんか!私たち何もしてないわよね。

「だだだ大丈夫だビビビ心配すんな!のみ込まれてもおれが必ず助けてやる!」
「ねえもしかしてルフィさん達!」

この雪崩が起きたのも、ルフィさん達に何かあったからかもしれない!ラパーンに襲われてケガしてるかもしれないわ!この雪崩にのみ込まれてないといいけど……。

「ももももうダメだ!のみ込まれる!」
「……っよし!最終手段!」

くるりと雪崩を正面に向かえたリリナさんに目を向ける。何をする気なのかしら……こんな雪崩どうにもできないのに!
私に背を向けているリリナさんを呼んだのと同時に右手が横に振り払われる。すると衝撃波のような重い風があの大きな雪崩を吹き飛ばして私たちの前は更地になっていた。まさかの出来事に唖然として動けなくなった。

「これがこの前聞いた風?……すごいわ!」

雪崩さえも吹き飛ばしてしまうなんて、すごい力。照れたように笑っているリリナさんに風が吹いてふわりと髪が靡いた。


目の当たりにしたリリナさんの能力に夢中になっていたところ、ふとウソップさんがいないことに気付いた。向かっていた方向に目を凝らしてみてもそれらしい姿はなくて雪崩から逃げているときは確かに前を走る姿を確認していたのに。

「ウソップウウ!!」

リリナさんの慌てた声に反応すると顔を青くして地面を見ていた。その地面には雪から細い何かが飛び出ていて、それがウソップさんだと気づく。

「どうして雪の中に」
「きっとあたしが巻きこんじゃったんだ!ごめんねウソップウウ!」

雪から掘り起こすと顔が青ざめていて意識がはっきりとしていない。

「意識がないよおお!死なないでウソップウウウウ!」

リリナさんはもう軽くパニックになっていて涙を流しながら私の腕を掴んでいる。さっきはあんなに頼もしいと思ったのに。

「大丈夫よ、リリナさん!朦朧としてるだけ。引っ張って歩いていればじきに気が付くわ」
「……ねえビビ大丈夫?顔伸びてるけど……」
「ええ、平気」

男の人1人だとしても、こんなコンディションが悪い道のりじゃなかなか先に進まない。これではギャスタに着くのはいつになるか分からないと判断して、やっぱりウソップさんを起こして進むことにした。

「しっかりしてウソップさん!」
「なんだよビビ、起こすなよー。今きれいな花畑ときれいな川と……」
「あの世の寸前じゃないのよお!起きてウソップさん寝ちゃダメ!起きて!」

気のない声で喋るウソップさんの頬をを寝かさないように力を込めて叩くとぱっちりと目を開けた。一安心かと思ったらまた力が抜けて倒れてしまったからもうなりふり構っていられないと、ウソップさんを呼び戻そうと力の限り頬を叩いた。

「いやよ起きて!死なないでウソップさーん!」
「巻きこんだことは謝るから!さっき頼りないって言ってごめんー!」

一心不乱に叩き続けているとやっと目を覚まして立ち上がったウソップさんに安堵して息を漏らした。

「いやあ、助かったぜ。ビビ。しかし心なしかおれの顔腫れてないか?」

叩き続けたせいで顔の原型は崩れていて顔は大きく腫れ上がっていた。唯一本人だと認識できるのは無傷な鼻だけ。

「し、しもやけよしもやけ!雪国は大変っ。そ、それより早くこの場所と現状を把握しなきゃ!」

慌てて話をそらすといきなり私たちの前の雪が盛りあがった。突然のことに眼を見張ると悲鳴をあげる間もなく中からMr.ブシドーが出てきた。

「ああー、まいったまいった。このさみィのにいきなり雪崩とはついてねェな。でもまあこれも1つの寒中水泳か」
「ゾロ!」

いきなり現れたMr.ブシドーを嬉しそうに名前を呼ぶリリナさん。それよりなんでこの人雪の中から出てきたのだろうか。なぜ上着を着てないのか。どうやってここに着いたのか。おかしな人達ばっかりで大変で一気に疲労が押し寄せた。