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とは言ったものの、あのなんとかスーツは本当に強くなる効果があるみたいで、サンジくんが蹴りかかってもあの麺に足が埋まっちゃって効果がない上に、簡単に外れないから上手く反撃できてない。それに死角だと思ってた顔からも攻撃してくるから普通の打撃じゃ効かないみたい。大丈夫かな?

「サンジくん!大丈夫?」
「ああ……大した事ない……」

痛そうな音を立てて床に叩きつけられたけど、思ったよりは堪えてないみたいで安心した。さすが男の人だ。……あ、そうだったあたしサンジくんに好っ……!あっちょっとやめようこの事は今は置いとかないとサンジくんでいっぱいになってしまう頭の中を、ロビンの顔を割り込ませて無理矢理サンジくんを追い出した。

「さっきから見てたらお前ェーっ!戦闘手段はキックだなー!キックできなきゃしょうがないんだろーっ!さっさっさーー!ムダだムダだー!何をやってもおれのスーツに埋まるだけだよーっ!それかわしてみろ"ラーメン拳法 複麺スパンク"!!」

反撃できないサンジくんをいい事に追い討ちをかけようとまた攻撃をしかけて来たとき、横に並べてあった包丁を取りだして飛んできた麺の腕を切り離したただの麺が綺麗にお皿に盛り付けられた。

「"1.4mmパスタ"フェデリーニ」
「は!?曲芸!?わっ!おれの"麺ズフィストが!バラバラに!」
「………。戦闘には!コックの神聖な手も庖丁も使わねェのがおれのポリシーだが……ここが給仕室で、敵が食材ならば話は別だ」
「"千麺ムチ"!」

サンジの話を遮るように変な顔がまた攻撃してきたのをさっきと同じように切り離してお皿に盛りつけられていく。あたしでも分かる、動きにどこにも無駄がない。

「……!生意気なー!料理もできねェ素人が庖丁なんか持つんじゃねーよー!不良の使うナイフとはワケが違うんだぞーっ!」
「すいませんねェ生意気で……お詫びといっちゃ何ですが、ご覧に入れましょう。一流コックの別格の庖丁捌き!」

そう言ったサンジくんの背中は今までで一番かっこ良く、大きく見えた。なんだか輝いてるような、サンジくんしかいないような不思議な感覚で、心臓のあたりがドキドキしてきて少しだけ息苦しくなってきた。見てるだけなのになんだかおかしい。どうしよう、なんだろうこれは。初めての感覚だ。変なものでも食べたのかな?もしかして何か悪いものでも食べたのかな?もしかして……し、死ぬときってこんな感じ?


私の心臓はドキドキしたまま、それからもワンゼが技を繰り出してくるたびにその麺がサンジくんによって切り落とされて次から次にお皿の上に山盛りに盛りつけされていく。おかげで右にも左にも大盛りのパスタが並んでる、なんとも不思議な光景。

「おれはタマネギかー!畜生ォ生意気な、犯罪者のくせにー!麺ズフィストがなくなったー!」
「どうしたラーメン拳法、さっきの威勢はよ。もう負けを認めて道を譲れ」
「認める!?認めるか!おれはCP7のエース、ワンゼだよーん!!」
「CP7!?」

サイファーポールはめんどくさい奴らだから変に手を出すなって言われてたんだけど。確かに、顔はめんどくさいけど実力的にはそんなじゃないな。おかしいな、もしかしてあの人嘘とかついてるんじゃないの?

「残念ながらおれは今回の任務の重要性をわかってるんだ!お前らの仲間だっつーニコ・ロビンは政府が長年追い続けてきた女だ!それを簡単に渡せるかバカ者ーー!"ラーメン拳法 麺杭ノッカー"!!」
「タマネギはまず、果肉を傷めず茎と根を切り落とす。繊維をひと息に断ち切れば……切り口はすっきりと光沢を維持する。"皮剥作業エプリュシャージュ"!」
「ギャアーーっ!!」

ワンゼの叫ぶ声と一緒に着てたはずの麺が体から離されて、ぼたぼた音を立てて床に散らばった。足元に転がってきたサンジくんが切った麺はたまねぎを切ったみたいに綺麗にまとまったまま。

「なお、皮剥でさえ愛情を欠いては……どんな料理もマズくなる」
「ギャーー!き、き、き、斬られ……?斬られてねェっ!」
「庖丁は剣じゃねェんだ人は斬らねェ。ただしヨロイを失った危機に気づけ」
「"庖丁投げ"!!」
「うわ!……コノっ"ウイユ"!」

大きな体のワンゼがこっちに背中を向けてるから向こう側にいるサンジくんが隠れていて何をしてるのか分からないでいたら、サンジくんの足が思いっきりあいつの目に直撃してた。

「目がヘコむ!」
「ヘコめ」

目をおさえてもがいてるのも見てると正直痛そう。切られるよりも痛そうだ。ちょっと可哀想だけど無視だ無視。