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フランキーが壁ごと破ったところを見て小さくなっていくロビンが乗ってる汽車を見つめる。そんなに遠くない。雨と風が強いけど今ならまだ間に合うかもしれない。小さくなっていく黒い塊を睨んで足に力を入れると、ぐっと肩を掴まれて強い力で後ろに引き戻された。

「……っ離して!今ならまだ届くのにっ!ロビンが連れてかれちゃう!!」
「待て!リリナちゃんが単身で乗り込んでってもあいつらに囲まれて終わりだ!やっぱリリナちゃんには不利なんだこの中じゃ!!」
「でもロビンがっ!悲しそうな顔してたのに!助けてあげなきゃロビンが!」

サンジくんの腕を振り払おうともがいても、もがいた分だけあたしを掴む力が強くなってその分動けなくなってく。けどこんなところでロビンがいなくなっていくのを見たくないから、だから助けたい!不利な事は分かってるけどジッとしてなんていられないのに!

「離してよ!!」
「落ち着け!すぐにルフィ達と合流して助けに行く!悔しいのはおれも同じなんだ!だが今は体制を立て直した方がいい!!」
「っロビン……」

最後は抱きすくめられる状態になって、汽車ももう見えなくなってた。諦めるように身体の力を抜けばその分またぐっと力が込められた。

「もう、行かないよ……」
「……」



しばらくして重い空気のままでいると外から賑やかな声が聞こえてきた。ウォーターセブンの町にいたヤガラの何倍も大きいものが小さい小屋を乗せて海を泳いでた。そこに乗ってた人達はフランキーと同じ解体屋の人達らしくて、フランキーを取り戻そうと後を追ってるって事だったから一緒に乗せてもらった。

「エニエス・ロビー…」

海軍本部とインペルダウンの近くにあるっていう罪人を裁く場所。そこに連れ込まれた罪人は全員有罪になって流れるようにインペルダウンに送り込まれるんだって聞いてる。インペルダウンは一回入ったらもう出られないところ。だからそこに入って手遅れになる前に、エニエス・ロビーでロビンを助けなくちゃ。

「リリナちゃんナミさん達来たぞ!」

さっき揉めてたのが嘘みたいに明るいサンジくんの声に俯いてた顔をあげると窓の外にルフィがいた。すぐに向こうの汽車に乗りこんで、座ってたナミがいたから居ても立ってもいられなくて動く体に任せてナミに抱きついたら涙が溢れてきた。

「ナミイイィっ!!」
「わっリリナボロボロじゃない!服も濡れてるし着替えなさい!着替え持って来てあるから!」

強制的に体を剥がされて畳まれた服を押しつけられて、人のいないヤガラの船の方に連れ込まれた。ナミがくれた服を広げると上は黒い襟がついてて袖のないレースの可愛いシャツだったけど、下の服は黒いスカートだった。しかも裾がヒラヒラしてるやつ。レザー素材で普通のものよりは少しだけ重いけど、でもいつもみたいに動いたらヒラヒラして中が見えちゃいそうなスカート。嫌だって言ったらこれしか持ってきてないって怒られた。あたしは無茶するからこれで抑えるんだって。

渋々着替えて汽車に戻ろうとすると出てったナミに代わってサンジくんが入ってきた。

「サンジくん……?」
「ロビンちゃんは必ず助ける。必ず助けて、またメリーで一緒に航海しよう」
「……うん。必ずね!」

あたしが笑ってみせれば安心したように笑ってくれた。


・・・・・


「ロビン!!」
「ロビンー!!」
「ロビンちゃん!!」

そうみんなが私を呼ぶ。こんなに私を思って呼んでくれる人は、すごくすごく久しぶりで嬉しかった。何度もそっちに足が動いてしまいそうになった。だけど、だけど私があちらに行ったら彼らを酷い目に遭わせてしまう。私の名前をああやって呼んでくれなくなってしまう。笑顔を奪ってしまうかもしれない。それがすごく怖いの。こんな私があの笑顔を奪ってしまう前に、私から彼らの前からいなくなってしまえばいい。それしか彼らを守る術がないの。

だから……だからもう私を追ってこないで。私を追ってきてしまったら、またあの日のように彼らの全てが燃えてしまうから。助かりたいのに助からない、どこへ逃げても逃げきれなくて炎にまかれて全てが無くなってしまうから。そうしたら私なんか助けなければ良かったって思うだろうから。

「ロビン!待ってよ!!」

今にも泣きそうな顔をして私を見つめるあの子の事が頭から離れない。苦しそうに、痛む頭をおさえる姿は見ていられなかった。いつもの笑顔が消えた彼女にすぐにでも駆け寄って身を案じたかった。けれど私がそうしてしまえばそれ以上に苦しませてしまうから。

私はあの日からずっと逃げてきた。けれどもう限界なの。もう逃げられない。自分の未来よりも彼らの夢を優先したい。私の事は忘れて、これからも夢を追ってほしい。……私は大丈夫だから。