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「うわああああっ!!」

ロビンの手錠の鍵を握りしめながら走ってると壁の向こうにチョッパーとゾロとウソップの気配を感じた。だけどここにウソップがいるはずない。でも感じる気配はウソップのものだからもしかしたらウソップとここに来てるかもしれない。って考えてたら、その壁が突き破られて大きい化け物みたいなのが現れた。CP9の誰かの能力かと思ったけど、よく見たらチョッパーと同じ帽子をかぶっててツノも生えてる。チョッパーに似てる。というかチョッパーかも。

「チョッパー!?なんでこんな大きくなってるの!?……ってなんで攻撃してくるの!?あたしだよっリリナ!そこからじゃ小さすぎて見えない!?」

叫ぶように呼びかけても聞こえてないのか反応が変わらない。絶対にチョッパーなはずなのにあたしを追いかけて潰そうとしてくるから少しだけパニックになりそう。攻撃するわけにいかないからただ避けるしかないけど、どうにかしないと。

「おいリリナ!」
「あれっゾロ!そ、そげキングも!どうしたの二人ともそんなにくっ付いて仲良し!?」
「お前、鍵持ってるか!?」
「鍵?持ってるよ3番!」
「おい、こっち来てこの手錠にはめてみろ!」
「仲良ししてるんじゃないの?」
「いいから来い!!」

よく見たら向こうにキリンと狼もいるし、ここってまさか動物園じゃないよね?よそ見をしてのんきな事を考えてたらぐいって腕を引かれた。あたしの腕を引いたゾロの顔はそれはそれはとても怖かったから持ってた鍵を鍵穴にさしてみたけど開く気配はない。

「うーん……駄目みたいだよ」
「くそっ!じゃあお前はルフィを追ってロビンとこ行け!」
「……わかった!」

無理やり呼び寄せられて、今度は肩を押されて無理やり距離をあけられた。あまりの押しの力にバランス崩して転びそうになったけどどうにか踏ん張れた。ちょっと自分勝手だったけど焦ってるからそんなに気にならなかったみたい。

あのキリンと狼と、チョッパーも気になるけどきっとなんとかしてくれる。そう信じてゾロに言われた通り、今度はルフィとロビンの方に向かって走り出した。今回は走ってばっかりだっていう文句もロビンのためなら言わないし、走るのは嫌いじゃないからいいんだ!



途中でチムニーに会って正確な行き方を教えてもらうとぐんぐんルフィに近付いていってるんだけど、でもトンネルみたいな一本道はいくら進んでもなかなか抜けられない。うんざりしてたらやっと開けた場所に出られて、さっき言ってたルッチと戦ってるルフィのところにたどり着けた。

「ルフィ!」
「リリナ!なんだ、もう来たのか!」
「一つしか持ってないけどね!」
「そうか……まァいいや、それならそれ持ってロビンを追ってくれ。あの扉の向こうに行っちまったんだ」
「うん」

そうか、もうあの扉の向こうに行っちゃったのか。ここまで走ってきた距離を思い返すと、正義の門までそう遠くはなさそうだ。あともう少しでロビンのところに追いつけるんだね。

「そう簡単な話ではないがな」
「それでもその向こうに行く!」

そんな事あたしだって分かる。どうせCP9の中じゃあの人が一番強いんでしょ。ルフィが相手するくらいだもんね。でもこんなところで足止めされてる暇もないから何がなんでも先に行くんだ。

仁王立ちで立ち塞がるそいつに横から攻撃を仕掛けても硬い身体でビクともしなくて、逆に何回も捕まりそうになったのをどうにかすれすれのところで避けてたけど、結局運悪く大きな拳がお腹にめり込んできて壁に叩きつけられた。

「……うぅっ!」
「リリナ!」

お腹の中から何かが戻ってくる感じがして我慢してたら気持ち悪くなっちゃったからそのまま吐き出したらただの透明な唾だった。血だったらどうしようかと思ったから安心。でもまだ何か戻ってきそう。苦しい。

「だい、じょうぶ。これくらい……!」
「白ひげ海賊団の娘が何故こんなところに戻ってきているのか分からないが、それならそれでここで死んでいけ」
「お前なんかに殺されてたまるか!」

あいつ一撃がすごく重い。当たらないように避けてても、見聞色でどこに来るのか分かっててもあたしじゃ余裕がなくてやっぱりすれすれ。攻撃の隙をつこうと思ってもそれより先に捕まっちゃう。もうこれ以上当たったらこの先に行けなくなる。もう、当たっちゃ駄目だ。

「"ギア・セカンド"」
「ルフィ……」
「"ゴムゴムの、JET銃ピストル"!!」

なんだろうあの技。体から煙が出てるしルフィの体が赤くなってる。もしかして、熱いのかな?初めて見る今までとは違った技で、しかもスピードも上がってるしあいつを殴った強さも今までとは全然違う。

「指銃!」

ルフィの強さは分かったからCP9の奴が倒れてる隙に扉に向かって走ったけど、起き上がって一瞬であたしの前に来て指で胸の上のあたりを刺された。

「うっ、く……!"ヴィントシュトース"!」

ぐらって視界が傾いたけどなんとか踏ん張っていつもより力を込めて手のひらを目の前に突き出すと、思ったよりも強さが増したのかあいつが油断でもしてたのか、手のひらを中心におきた旋風が大きな音を立ててあいつを壁に叩きつける事ができた。

「頼んだぞリリナ!!」

後ろから聞こえたルフィの声に背中を押されながら今度こそ脇目もふらないで扉の向こうに走り出した。必ず間に合わせてみせるよ!


扉を開けると今度は上りの階段だった。来るときは下りの階段だったからきっと外に出られるって事だね。そんな少しの希望が見えたとき、いきなり膝が動かなくなって膝から崩れ落ちたけど、どうにか手をついて体を支えた。

ダメージを受けたせいかさっきよりも体が重く感じる。それに意識するとさっき指で刺されたところが痛いし、上手く酸素を肺に取りこめなくて苦しい。少しでも呼吸を落ち着かせたいけど今は時間と勝負してるんだから止まってられないんだ。前に進まなきゃ……。
30秒でも10秒でも早く、ロビンのところに行きたい。それなのに気持ちとは裏腹に足を動かすスピードが遅くなったせいで身体がスムーズに動かなくなってきた。軟弱だ……あたし。

前に少しずつでも進んでると後ろから足音が聞こえてきた。敵じゃない気配に動く足を止めないでいても、すぐに追いつかれてしまった。聞こえてきたのは意外な人の声だった。