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顔を青くして身体が震えてたはずのロビンがあたしを見て優しく笑うと、立ちあがって護送船を奪いにフランキーと走ってった。その二人のおかげで船を奪う事ができたし、あたしも少し体が落ち着いてきた。

「悪ィな海兵諸君!この船はおれ達の脱出に使わせて貰う!!さァ護送船改め脱出船の大掃除完了だ!あとは麦わら達を待つのみ!」

それでもまだ本調子には戻ってないから船べりに寄っかかってみんなが来るのを待ってた。そしたらこの船の下からすごい勢いで人の塊が海から飛びあがってきた事に驚いてこれでもかってくらいに目が開いたし、一瞬心臓も止まった気がする。

「死ぬんじゃー……らいよーっ!!」
「ギャーーーっ!!」
「ジュ、ジュゴン!?ってみんないる!!」

海からあがってきたのは、ロケットマンに乗ってたココロおばあさんだった。なんだけど、どこかおかしい。ううん、どこかじゃなくて下半身……というより足がおかしい。足が足じゃない!

「奇跡としか言いようがねェ!何かとんでもねェ……そりゃあもうとんでもねェショックを受けたんだろ。全員仮死状態にあった為にあまり水を飲まずに済んでる」
「んがががよかったれぇ。仮死状態になる程のショックって一体何が
「おめェだ」

まるで人魚みたいな足。足っていうよりヒレ?でもあたしが知ってる人魚は腰のところからウロコになってて足みたいな足じゃなくて尾ヒレだし。初めてみる形にあたしだけ置いてけぼりにされてる。

「おまいらね?海賊王の小僧が助けに来た仲間。シフトステーションで会ったれぇ、憶えてるよ。あの時はまさか、おめぇらがこんなコトしでかすなんて考えもしなかった……!海賊王になるなんて笑っちまったが…案外ホントかもしれねェな。んががががが!」

フランキーは知ってたのかもしれない。それはなんとなく納得できる。あんなに落ち着いてるから。だけどロビンはなんであんなに表情一つ変えないでいられるの?驚いてないの?あのココロおばあさんの足がヒレだったんだよ?置いてけぼりにされてる間におばあさんに助けられたゾロとウソップとサンジくんが目を覚ました。

「よく生きてた」
「ギャーー現実だった!!人魚って本当はいねェんだ!!」
「人魚かと思ったらジュゴンだったって伝説は本当だったんだな」
「バカ野郎!まだ本人が人魚だなんて言ってねェ!!夢を諦めるな!」
「あたしはシラウオの人魚らよ」
「やめろーー!!」

騒いでる3人を少し離れた場所から見てたらなんだか落ち着いてきたかもしれない。というか慣れてきたのかも。ウソップはもう出すもの出してるし、ゾロもいつもは変わらない顔を変えて驚いてるし、サンジくんに至ってはもう背中を向けて見ようとしてない。

「でもよ!足のある人魚なんて聞いた事ねェ」
「おれも異議ありだっ!!マーメイドってもっと……!マーメイドってもっとアレで……」
「……人魚ってのは年の頃30を境に尾ヒレが二股になって陸上生活のできる体になる神秘の種族。いつか魚人島へ行けばわかる」
「そうか!100年生きた猫は尻尾が二股に割れて妖怪化するというぞ!」
「ああ……化け猫か」
「一緒にすんじゃれえよ!!おめェら礼の一つも言ったらどうらい!」
「ココロさんどうもありがとう」
「んがががいいんら!」

こんな流れでココロおばあさんはシラウオの人魚でもう30歳をすぎたから陸の上で住めるようになったんだって。なるほどね。という事はあそこの人魚達もいつか外に出られるようになるって事なのかな?……考えたくないな。

「んルルルロォービンちゃあーん!!」
「ロビーン!!」
「間に合ってよかったロビン!無事だったのね!」
「ボビーーン!」
「ええ、お陰様で……!ありがとう」
「いいのよもーー!」

さっきまで人魚の事に必死だったサンジくんはロビンを見つけると、ハートを振りまいてロビンに飛びかかっていったけど、横から出てきたナミとチョッパーに先を越されちゃって見事マストに顔から激突した。サンジくんは本当に忙しい人だ。

「おい嬢ちゃん大丈夫か?」
「……うん、あとはルフィだけだね」
「リリナちゃん……?」

フランキーがあたしに話しかけてくれたおかげでサンジくんがあたしに気付いた。サンジくんの呼ぶ声が聞こえてそっちに顔を向けたら、悲しんでるのか喜んでるのかどっちとも言えないような顔をして駆け寄ってきて目の前にしゃがみ込んだ。

「……ふふ、サンジくん鼻血出てる」

鼻血も出てるし、目も潤んでるし顔も体も傷だらけだからおかしくて笑ってしまった。鼻血を拭いてあげたくて拭けるもの探してたら、サンジくんが先に鼻血を服で拭いてあたしにつられたように笑った。へへって、気の抜けたような笑い方に気持ちがホッとした。顔を見ない時間ははちょっとしか経ってないはずなのに、すごく待ち焦がれてたみたいな感覚。へんなの。