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「ん何とか無事だァーーっ!!」
「しぬー!」

ヤボ用から帰ってくるとリリナちゃん達が乗ってるはずの脱出船に砲口が向けられてたから気付いてないココロのばあさんとチョッパー達を抱えて、どうにか炎にのまれず助けられた。さすがに今のは心臓ばっくばくだ。

「よかった!サンジくん!あんた一体どこにいたの!?」
「いや悪ィちょっとヤボ用で!しかしまいった!ドえれェ事になった!こっちサイドはロビンちゃんがいるから砲撃はねェと思ったのに船が
「……ねえサンジくん、リリナは?」
「え……?」
「リリナもあの船に乗ってたはずなんだけど……」
「え……」

ナミさんの凍りついた表情に血の気が一気に引いた感覚に気持ち悪くなった。船の上にはあの三人と一匹しかいなかったはずだ。もしかして見落としたのか?しかも愛してやまないあのリリナちゃんを?てっきり他の奴らと応戦してるんだと思っていたが……とんだ早とちりだ。確かにどこを探してもいない。じゃあ、あの炎に包まれながら海に沈んでいくあの船の中にいるって事なのか。いや、嘘だろそんな……リリナちゃんが。

「"トロンべ"」

風に乗ってリリナちゃんの声が聞こえてくると軍艦の足を止めるような無数の竜巻がいくつも巻きあがった。でも肝心の本人がどこにいるのかが分からなくて必死で探してると、海に刺さるように立っている鉄鋼の影から一本の腕がこちらに向かって手を振っていた。

「リリナちゃ!!
「待って!私達が今声をあげたら向こうに気付かれて今度こそ海に落ちるわ!」
「じゃあどうすりゃ……!」

リリナちゃんを呼ぶ声はナミさんに遮られた。リリナちゃんがいる鉄鋼はまだ海の上にあるとはいえ、いつ沈んでってもおかしくないようにグラグラ揺れている。早くしねェと海に沈んでっちまうのに焦るおれと違って冷静すぎるナミさんに余計煽られる。一刻も早くおれは助けに行きたいんだ。

「"シュトゥルム・ウント・ドランク"」

リリナちゃんの風が更に激しく吹き荒れる。そのせいで波も荒くなり始めてルフィに向けられている砲口もゆらゆら揺れていい感じに照準が合わないようになっているみたいだ。

「……向こうはまだリリナがあそこにいる事に気付いてない。……ちょうど軍艦からは死角になってるのよ!あの子はまだ大丈夫!軍艦の照準が定まらないうちに早くルフィを!」

ルフィも危機的状況にあるとはいえ愛しのレディより野郎を先に助けないとならないってのはすげェ腑に落ちないが、とにかく今はナミさんが正しいと信じてルフィをどうしかするしかない。そらしていた顔をもう一度リリナちゃんの方へ向けると、いつも通りにっこり笑っておれを見てくれていた。そして口をパクパクして、おれに何かを伝えようとしてるようだ。ここじゃ距離があって何を言おうとしているのかは分からない。だがその素振りに少し心に余裕が出来た。

『立てー麦わらさーん!!』
「しっかりしなァ!小僧ー!!」
「海賊にーちゃん!」
「ルフィ!!立って!!お願い!」
「何か手はねェのかよルフィー!」

リリナちゃんが時間を稼いでくれているとは言えいつ撃たれるかも分からない状況なだけにみんな焦りは隠せない。そんなときに離れたところから声が聞こえてきた。聞いた事のない声だが、全く関係ないとは思えない馴染みのある声。「下に、飛んで」って。

「やっぱり聞こえる!何だ!?下って……」
「誰?」
「何だコリャ……」
「下を見ろって……!」
「海へ飛べーー!!!海へー!!」

ウソップの情けない叫び声が響く。

「ロビン!ルフィを海へ落とせるか!?」
「任せて!」
「バカ野郎!自滅する気か!!ヤケになっても助かりゃしねェぞ!!」
「助かるんだ……!助けに来てくれたんだ!!まだおれ達には……!仲間がいるじゃねェかァ!!」

海へ飛んだところでおれ達にいい事なんか何もねェってのに何考えてやがんだと思っていた。だがナミさんやチョッパーが下がどうとか涙を流しながら声をかけていたのにつられて海を覗いてみると、ちょうど軍艦の間をすり抜けておれ達のいる支柱のすぐ下に浮かんでいる小さな船を見つけた。

「海へーーっ!!」

ロビンちゃんの能力によって海に投げ出されたルフィに続くように全員で海の上で待っている仲間のところへ飛びこんだ。


"帰ろうみんな!また……冒険の海へ!"

「メリー号に!!乗り込めー!!」

"迎えに来たよ!"


メリーが助けに来てくれた。海を渡る上で何よりも大切だった仲間が遠く離れた島からここまで来てくれた。だが誰が乗ってる様子もないのにここまで来たって、どうなってるんだと不思議に思うところもあるが今は先にリリナちゃんもメリーに乗せてやらないと。

「ナミさん!」
「ええ!リリナしっかり乗りこみなさいよ!!」

少しずつメリーがリリナちゃんのいるところに近づいていって、メリーを見たリリナちゃんの目からぽろぽろと涙が零れ出した。

「リリナちゃん飛べ!」

船べりに掴まってそう叫ぶと、それに従ってすぐに鉄鋼を蹴ってこっちに向かって飛んできた。リリナちゃんはおれに向かって飛んできているのに気付いて高鳴る心臓なんて放っておく。どんどん縮まっていく距離に比例して心臓の煩さも増していくばっかりでしょうがない。そのまま着地してもらうのも良かったがおれの胸に飛びこんで来てくれているなら受け止めるのが男の役目だろ。だから船べりに乗っかって目の前に来たリリナちゃんの体を両腕に閉じこめるように抱きとめた。おれとリリナちゃんの間に隙間なんて作らないように強く。

「つかまえた」
「……っサンジぐん!!」

おれが抱きしめる力と同じくらい強くリリナちゃんもおれの服を強く掴んでくれる。腕の中におさまるリリナちゃんがさっきまで感じていた不安を嘘のように吹き飛ばしてくれた。これ以上安心できるものなんて無いくらいに。