117

メリーに飛びこんだあたしをサンジくんが抱きしめてくれた。それがとても嬉しくて安心した。一瞬だけ何もない世界にあたしとサンジくんだけみたいに静かになったけど、すぐにたくさんの人の声が耳に入ってきて現実に引き戻される。

今の状況で目を開けても目の前は真っ黒で、聞こえてくるのはドクンドクンって少し速い心臓の音。あたしのなのか、サンジくんのなのかは分からないけど心臓の音が聞こえるくらい近くにいる事が今更恥ずかしく感じる。だけど引き際が分からないや。もういいよって言えばいい?大丈夫だよって?でもサンジくんは全然動かないし……。どうしよう。

「みんな!ありがとう」
「……気にすんな!ししし!」

サンジくんの腕の中で固まっていると、ロビンの声が耳に飛びこんできた。そしたらサンジくんの腕の力が緩んでって、それから自然とロビンと目が合った。あたしを見てにっこり笑ってくれた。ロビンが一緒にメリーに乗ってる。取り返すことができたんだ。それだけで満足だ。そう実感するとすごい達成感がわき上がってきた。それから横から視線を感じてそっちに目を向けると、視界いっぱいにサンジくんが映った。ほっぺが赤い。恥ずかしくて緩んだほっぺで笑うと、つられたようにサンジくんも笑った。なんだか幸せだ。

「んなくだらねェ事言うのはここ逃げ切ってからにしろよ!」
「くだらねェとか何じゃマリモォー!」
「うるせェ!ここで死んだら元も子もねェだろ!!」
「謝れオルァーー!ロビンちゃんにィー!!」
「サンジくん舵とって!」
「アーーイナミさーん!」

ゾロの一言に怒ったサンジくんはあたしから離れてゾロに飛びかかってったおかげでやっと解放された。だけどあれだけ近くにいたせいか、突然離れてったから今まで当たってなかったところに風が当たるようになって少し寒く感じて、寂しくもなった。さっきまであんなに近かったのに忙しく動くサンジくんが遠く感じる。これがいつもの距離なのに、こんな事思うなんておかしいな。


軍艦の群れから抜け出すためにナミがメリーを動かそうと指示を出したのと一緒に向こうから砲撃が始まった。だけど砲弾はあたし達が乗ってるメリーじゃなくて味方の軍艦や離れた海に落ちてくばっかりで当たらない。目の前で大きな軍艦が砲撃に合う場面は迫力がある。狙撃手が下手なのかな?でもバスターコールを任せられた軍艦にそんな下手っぴな狙撃手なんか乗るはずないよねぇって考えてたら、あたりの海面にたくさんの渦潮が目に入った。

「うっひょー想像以上!」
「サンジ!まさかお前さっき!」
「根性だけで逃げきれる敵じゃねェだろ?」
「す……!すげーぞサンジ!!」
「天才かお前!」
「えっへっへ」

とんとん人差し指でこめかみのとこを突つくジェスチャーをするサンジくんの大きな働きにみんなが褒めると嬉しそうに笑った。脱出船が砲撃にあったときいきなり変なところから出てきたんだってやっと繋がった。あたしは門を閉めるレバーがある場所なんてよくわかったなあって関心するばかり。

「喜んでばかりいられねェ 渦潮はおれ達にとってもヤベェだろ!」
「そうだ!しぬー!」
「おだまりっ!あんた達、私達が乗ったメリー号に越えられなかった海はないっ!」
「うおー!そうだ!!頼むぞ航海士!」

ナミの指示のおかげで勢いよく軍艦の群れから抜け出せた。しつこく砲弾がこっちに撃たれてきたけどゾロとサンジくんがルフィを使って跳ね返して、軍艦に撃ち返した。三発もあったから威力はすごい。頭とゴムは使い様って事。

あたし達の優秀な航海士のおかげで軍艦から撃たれる砲撃も、行く手を阻むような渦潮も掻い潜っていくと、あんなに大きく見えてた軍艦もエニエス・ロビーもどんどん小さくなっていった。


またメリーに乗って海を渡れるなんて思わなかった。今はあんなに激しかった砲撃もなくてただ穏やかな海をウォーターセブンに向かっていつも通り走ってる。

「お前のおかげで脱出できた。ありがとうメリー!」
「しかしお前らコリャとんでもねェ事しちまったぞ……。だいたいな、世界政府の旗を撃ち抜くなんて」
「取られた仲間を取り返しただけだ!このケンカ!おれ達の勝ちだァ!!」

ルフィの一声でここまでのロビン奪還作戦は無事に勝って終わる事ができた。大事な仲間をやっと取り返せた!もう心配する事はないし、もうロビンがどこかへ行っちゃう事もないんだ。