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ウソップはまたあのお面をかぶってそげキングになった。だからルフィとチョッパーはウソップがいなくなったって勘違いしてる。そげキングが小舟で先に帰ったっていう言葉を信じてるルフィとチョッパーが可哀相に思えてくる。あたしもお面をとった場面を見てなかったら今も騙されてたんだと思うと、そのときまで信じてた自分がバカバカしく思えてくる。気配が似てるって……そのままウソップだったじゃん。親戚がそんなに似てるわけないじゃん。あたしってバカだ。

「やっぱり誰もどこにも乗ってない」
「……そりゃ変だな」
「確かにおれ達を呼ぶ声は聞こえたんだが」
「そうなのかい」
「呼ばれたのは確かよ」
「だからおめェら言ってんだろ、あれはメリー号の声だったんだよ!リリナもそう思うだろ!」
「あたしもそうだと思ってた」
「ほら!」
「えー!?本当か!?」

あたしもみんなと同じように聞こえたんだ。ちょっと高めの下を見て、っていう声が。それからメリーが見えたからメリーの声だったんだと思う。だってあそこには他にあたし達の味方をしてくれる人はいなかったんだもん。

「なー!メリー!しゃべってみろ!」
「バカ、船が喋るわけねェだろ」
「……私も何だかそんな気がしたんだけど、あるわけないわよね」
「……」
「ん?前から船が来るぞ!」
「何だ!?誰だ!?」
「ガレーラカンパニーの船だ!」

ルフィが指差す方向には大きな船が一隻こっちに向かって来てた。帆には大きくガレーラカンパニーの文字が書いてあって、向こうにはたくさんの人数が乗ってる分とっても賑やかで人の声が絶えない。それに応えるように手を振ってたら、バキバキって嫌な音が聞こえてきて、前につんのめって体のバランスが取れなくなった。突然だったからどうにかする前に前のめりになって転んで一回転した。近くにいたルフィもチョッパーも転んでて、みんなも今のでバランスを崩したみたい。よく見ると船の前の方だけ下に傾いてて、どうにかギリギリ二つに割れないように保ってるような状態だ。

「おい何だ!どうしたんだ急に……メリー号が!」
「……急にも何も、これが当然なんじゃねェのか?メリーはもう二度と走れねェと断定されていた船だ。忘れたわけじゃねェだろ」
「……でも!おっさーん!やべェ!メリーがやべェよ!何とかしてくれ!お前ら…!ちょうどよかった、みんな船大工だろ!頼むから……何とかしてくれよ!!ずっっと一緒に旅をしてきた仲間なんだよ!!さっきもこいつに救われたばっかりだ!」
「だったらもう、眠らせてやれ……」

このままじゃウォーターセブンに帰れない。どうにかして、また走れるようにしてほしいって願うルフィにアイスバーグさんはそう言った。

「すでにやれるだけの手は尽くした。おれは今、奇跡を見てる。……もう、限界なんかとうに越えてる船の奇跡を。長年船大工をやってるが……おれはこんなにすごい海賊船を見た事がない。見事な生き様だった」

そうだ。メリーは一流の船大工にもう走れないって言われた状態なのに、それでもあんなに遠くまであたし達を迎えに来てくれたんだ。だがら……もう、ここが、本当の限界なんだ。これ以上走ったらメリーは辛いだけなんだね。

「……わかった」

最後は船長であるルフィの決断に任せるしかない。船長がうんって言ったらそうするしかない。こんなところでお別れになるなんて思いもしなかったけど…本当は、本当は嫌だけど…でもメリーのためでもあるなら我慢しなくちゃ。


「じゃ、いいか?みんな」
「ああ」
「メリー。海底は暗くて淋しいからな、おれ達が見届ける!」

用意してもらったボートにみんなで乗って、メリーに火をつけて、海に眠らせてあげるのを見届けることになった。メリーが少しでも寂しくないように。

「ウソップは……いなくてよかったかもな。あいつがこんなの、たえられるわけがねェ」
「どう思う?」
「そんな事ないさ……。決別の時は来る、男の別れだ。涙の一つもあってはいけない。彼にも覚悟はできている」

ルフィがメリーに火をつけた事で、少しずつ火が広がっていってどんどん炎に包まれていく。見ていられないけど……見届けるって決めたんだから、目はそらしちゃダメだ。

「長い間……おれ達を乗せてくれてありがとう、メリー号」

あたしがメリーを見たときにはもう傷ついてて……でも大事にされてるんだなって一目で分かったよ。大きさは違うけど、モビーもメリーみたいに温かい船だからメリーにもすぐに馴染めた。あたしが作ったホワイトメリー号、メリーにも見せてあげればよかったね。ホワイトメリーと並べてみればよかった。

船首の上に乗るルフィがあまりに気持ち良さそうだから一回だけルフィに内緒で乗った事があったな。目の前に何も遮るものがなくて、ただどこまでも広がる海を見たらどこまでも行けるような気がした。それが心地良かった。

空島に行くとき、メリーに翼をつけたね。ニワトリだったのに空飛んで、それで空島に行けたんだよね。空島綺麗だったね。あるかないかも分からないって言われてた空島があるって自分で確かめられて嬉しかった。連れてってくれてありがとう。そうだ、あたし達が寝てる間に船が勝手に直ってたのはメリーが自分で直してくれたからなの?でもさすがにそこまではできないか。


いろんな事を思い出すたびに涙をこらえられなくなって、目の前が霞んでぼやけてメリーが見えなくなってくる。でも見届けなきゃいけない。邪魔な涙を退かすように手で目を擦ったら余計に見えなくなった。

" ごめんね。もっとみんなを遠くまで運んであげたかった……。……ごめんね、ずっと一緒に冒険したかった "
「メリー!?」

さっきと同じ声だ。さっき聞いたのと同じ声。あたし達をあの場所から助けてくれた声だ。やっぱりメリーだったんだね。メリーが助けてくれたんだ。

" だけどぼくは "
「ごめんっつーなら!おれ達の方だぞメリー!!おれ舵へタだからよー!お前を氷山にぶつけたりよー!帆も破った事あるしよー!ゾロもサンジもアホだから色んなモン壊すしよ!そのたんびウソップが直すんだけどヘタクソでよォ!ごめんっつーなら……」
" だけどぼくは幸せだった。今まで大切にしてくれてどうもありがとう。ぼくは本当に幸せだった "

「……メリーーー!!!」

崩れながら海に沈んでいくメリーはもうメリーには見えなくなっちゃったけど……だけどあたしはメリーの事忘れないよ。大切な仲間だもん。メリー、いろんなところに連れてってくれてありがとう。たくさん、いろんな景色を見せてくれてありがとう。あたしも、幸せだった。