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今日は楽しい一日だった。起きてすぐにガープおじいちゃんに会えたし、ガレーラカンパニーの人達とフランキー一家のみんなと宴して美味しいお肉をたくさん食べた。お風呂も入ったしあとは寝るだけだ。歯を磨きながら今日を振り返ってるとやり残した事があるのを思い出す。

「あ……そういえばガープおじいちゃんにエースのこと聞こうと思ってたのに忘れちゃった」
「何だよそんなにエースのこと気になるのか?」
「もちろんだよ。エースだって大事な仲間なんだもん」

口をゆすいでからみんながいる部屋に戻った。空島に行く前にティーチに会って、その後この青海に帰ってきてから普段は読まなかった新聞を読んでエースの事が書かれてないかってチェックしてたんだ。もしティーチが捕まってたとしたら、ただ新聞に載らなかっただけなのかってガープおじいちゃんに確認しようとしてたけど大事なチャンスを逃しちゃった。

「リリナはエースの事大好きだもんな!」
「ル、ルフィ……!」

ルフィが言った言葉に慌てて口を塞いだけど、ルフィは最後まで言っちゃったから意味はなかった。みんながいるのに。どうして言っちゃったの、こんなときに。言わないって約束したのに。……ルフィの事だからだいぶ前にだったから忘れちゃってるのも無理はないけど。

恐る恐る近くにいたみんなを見てみるとチョッパーはただニコニコしててゾロとナミは面白がってるような顔をしてるし、ロビンは違ったニコニコでこっち見てる。……サンジくんは、固まったまま動かない。

「へー、リリナってばエースの事好きなんだ。意外ね」
「ルフィ言わないって約束したのにっ」
「あっ、悪ィ言っちまった!」
「……あ!……あたしちょっとお散歩してくるねっ!」

いつもと違ってみんなの視線が痛く感じて逃げるように外に出たら、時間のせいか町並みは暗くて静かで、少し怖く感じた。でも部屋には引き返せないからそのまま歩く事にした。


あーあ、バレちゃった。知られて悪い事じゃないけど聞かれたくなかったな。特に、サンジくんには。だってあたしサンジくんが好きって言ってくれたのにちゃんとした返事してないままだし。それなのにこんな事になっちゃった。……でもサンジくんにはちゃんと自分で言わなきゃダメだよね。言いにくいけど明日になったら言おう。今日はみんなが寝たら部屋に帰ろう。

「リリナちゃん」
「うあっ!さ、サンジくん……」

そう決めたときいきなり現れたサンジくんに変な声が出ちゃった。今ので心臓がバクバクうるさい。正直なところ心の準備というものが出来てなかったからまだ会いたくはなかったな。

「夜は冷えるから上着持ってきたよ」
「あ、ありが、とう……」

思ったよりも上手く喋れなくてお礼言うだけなのにぎこちない。サンジくんが来てくれたんだから今言わなきゃ。早い方がいいに決まってる。ちゃんと、聞いてもらわなきゃ。

「……じゃあ俺は
「サンジくん、あのねっ……」
「……ん?」

歩いて行っちゃいそうだったサンジくんに声をかけると振り返って足を止めてくれた。暗い中だけど、どことなくサンジくんの顔が寂しそうに見えて言い出しにくい。

「あの……あたしね……」

言おうって決めたのに、やっぱり言いにくくて口から出づらい。そのあとに続く言葉が出てきてくれない。ごめんなさいって言わなくちゃいけないのに。喉まで出かかってる言葉を何度も身体の奥に閉まってはまた出しての繰り返し。なかなか出ていかない。

「………」
「もう少し……おれに頑張らせてくれないかな」
「……え?」
「リリナちゃんに好きな奴がいてもおれがその間に割りこんで、リリナちゃんを振り向かせて絶対おれの事好きになってもらう。おれしか見られなくするから。……どんなに時間がかかっても、必ず」

月明かりに照らされて見えるサンジくんの目は真剣で、好きだって言ってくれたときの笑顔はなくて目をそらせない。怖い顔じゃなくて本当の事だってあたしに伝えてくれる、そういう目。

「リリナちゃんはおれが幸せにする」

今度は柔らかい笑顔で。この笑顔をみると心臓がドキドキしちゃうんだ。人に好きって言われたのは初めてだからサンジくんの気持ちはすごく嬉しいけど、最近はサンジくんと2人だと普通じゃいられなくてどうしたらいいのか分からないの。サンジくんが動くとそれが気になるし、サンジくんと話す時少し緊張する。話したい気持ちはすごくあるのに、さっきみたいに言葉がつっかえて上手く出てこなかったり。なんだかおかしい。

「あたし……どうにかなっちゃったのかな……」

じゃあねって先に部屋に戻って行くサンジくんの背中から目が離せない。自分がぼーっとしてるの分かってるのに体が動かなくて。変な感じ。