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ナミの言う通りに動いていたら無事に嵐を越えられた。あんな大きな波を越えられたのは優秀な航海士のおかげね。もし彼女じゃない航海士だったら今頃みんなで海の底か、どこかの海に流されてるところだったわ、きっと。

「はあ……越えた……」
「越えたはいいが……何だこの海」
「まだ夜でもねェだろうに……。霧が深すぎて不気味な程暗いな」
「……もしかして……例の海域に踏み込んだって事かしら。まだ心の準備が!」
「お!?もう魚人島に着くのか!?」
「魚人島はこんなところにないよ」
「オバケの出る海の事だろ!」
「オバケ!?」

ルフィの発言に隣にいたリリナの表情があからさまに固くなった。それから青い顔をして体を震わせて怯え始めた。

「そうだ、気ィ抜くなよ。まさにこの海域はもう……あの有名な魔の三角地帯フロリアン・トライアングル 何もかも謎に消える怪奇の海だ……!」
「え……オ、オバ……オババ、オバ」
「オバケ出るんだ、ここの海」
「ふざけんなー!!何だみんな知った風だな!おれァ聞いてねェぞそんな話ー!!」

ウソップが話している最中もリリナは自分の肩を抱いて周りの様子を忙しなく伺ってる。こういうところはしっかり女の子なのね。でも見たくないのならざわざ探さなくてもいいのに。

「ココロばーさんが教えてくれたんだ。生きたガイコツがいるんだぞ」
「そりゃお前のイメージだろ。ムダにビビらせてやるなよ。……いいかウソップ。この海では毎年100隻以上の船が謎の消失を遂げる……。さらに死者を乗せたゴーストシップがさ迷ってるってだけの話だ」
「ギャアアアアアアいやだァ!先に言えよそんな事!」
「言ったらどうしたんだよ」
「準備だ!悪霊退散グッズで身をかためねば!」

ちょうど警戒していたときに、薄暗い船の上でオレンジの炎に照らされてゆらりと浮かぶサンジの顔を見たリリナはすぐ隣にいた私に、これでもかと言う程に体をくっ付けて離れなくなった。ふふ、可愛らしい。

「サンジ、こっちにも被害が及んでるわよ」
「リリナちゃあーん!オバケからはおれが守ってあげるよォ!」
「ロビンに守ってもらうっ!」

私に抱きついて怯えているリリナを見て嬉しそうに手を広げていたサンジだけど、見事に拒否されてしまってがっくり肩を落としてる。そんな彼を見て私はちょっと優越感っていうのかしら?そんなものに浸ってしまった。すごく落胆してる姿がおもしろくてクセになりそうだわ、面白い事見つけちゃった。


「ヨホホホー……」

そうしているとどこからか聞いたことのない怪しげなメロディーが聞こえてきた。その音楽が聞こえてきた船尾の方を振り返ると、この船の何倍もある大きくて、だけどボロボロな船がサニー号のすぐ後ろに迫っていた。

「出たァーー!!ゴーストシップー!!」
「何なの!?この歌……」
「悪霊の舟歌だ!聞くな!耳を塞げ呪われるぞ!」
「えーー!?」
「ゴーストが話しかけてきても耳をかすな!応えたら海へ引きずり込まれるぞ!悪霊は道連れを求めてる!」
「やだあっ!ロビンーっ」

ゴーストシップはみるみるとこの船の横を通って追い越そうとしている。近くなるにつれてリリナの腕の力が強くなって、このまま絞め殺されてしまうんじゃないかってくらいだから、ちょっとやそっとじゃ離れなさそう。

「……この船に……誰が乗ってるっていうの?」
「フン。敵なら斬るまでだ」
「いるぞ。なにか」

この船と隣同士に並んだとき、向こうの船べりから1人のガイコツがこっちを見ながらティーカップの中身を啜っていた。見てしまったオバケに他のみんなから意外にも叫び声があがらない。恐怖が何よりも優って声が出ない程になってしまったのかもしれないわ。

「本当に生きたガイコツいたぞ!よしっあの船に乗りこんで探しに行こう!」
「絶対いや!幽霊ってのは変に刺激させない方がいいのよ!」
「でもあいつは生きてるんだぞ」
「幽霊ってのは生きてなくても動くんだよ!未知なんだよ存在自体が!」
「おれは行かねェぞ!」
「あたしもっ!」
「なんだつまんねェなー。じゃ、くじにするからな!公平に!」
「行きたがってるのはお前だけだ!」

結局船長の意向のせいでクジ引きであの船に乗りこむメンバーをルフィ以外で2人決める事になった。フランキーがくじを手早く作ってそれぞれ一本引くと、私のには赤い印はついてなかった。ついていたのはナミとサンジ。顔を青ざめて拒否反応を起こしているナミの隣でサンジは嬉しそうにしてる。そんな3人が小さな舟に乗って前方にとまっているゴースト船に向かっていくのを、心の隅で羨ましく思いながらのんびりと見送った。