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海をさ迷うスリラーバーク。その嫌な雰囲気を漂わせている島を見つけるや否やガイコツは一方的にサニーから降りてあの島を目指して、あろう事か海の上を走っていった。骨だけだから軽いんだかなんだか知らねェがずいぶん自分勝手な奴だったな。ナミさんや他のビビり野郎2人を差し置いてルフィは乗りこむ気満々だ。

「こりゃ先に弁当作っといた方が良さそうだな……」

キッチンに戻って手早く食材を調理している間、ウソップの震えた声とルフィの笑い声に混じってリリナちゃんのか細い声も聞こえてきた。

「ロビンも行っちゃうの?」
「ええ、面白そうでしょ?」
「行かないでロビン……」

キッチンの扉のところで話してる声はルフィ達の声よりも鮮明に聞こえてくる。どうやらロビンちゃんも乗りこむ気らしく、それを止めているようだ。そういえばあの幽霊船を見つけてからリリナはずっとロビンちゃんにべったりだからな。ロビンちゃんが羨ましいったらねェよ。

「ナミは行かないみたいだから」
「でもナミも怖がりだし……」
「それならサンジは?」

ちょうど弁当を包み終わって、2人の会話を聞きながら外に出ようとドアノブに手をかけたところでおれの名前が出てきたから思わず動きを止めた。おれなんてリリナちゃんにぴったりだと思うんだが。いろいろと。

「サンジくんは行かないの?」
「行かないみたいよ。サンジなら怖がったりしないし、おばけから守ってくれるわよ」

ロビンちゃんナイスなフォローしすぎてシビれたぜ。そうなんだ、おれは男だからそういう面でも確実にリリナちゃんが怖がるゴーストから守りきってやれる。他の野郎なんか当てにならねェぜ。おれにしときなよ。

「でも……サンジくんは……」
「……なに?」
「サンジくんは……恥ずかしい」

リリナちゃんの声が小さくなって控えめに発せられた言葉におれは一瞬動く事ができなくなった。その声はキッチンで作業をしてたら絶対に聞こえないくらい小さかったが、リリナちゃんはすぐ目の前のドアの向こうにいるからよく聞こえた。聞こえてしまった。恥ずかしいって……恥ずかしいって思ってくれるって事はリリナちゃんはおれの事完全に意識してくれてるって事だよな。そう捉えていいんだよな?

「ルフィとフランキーは行っちゃうんだもんね。チョッパーとウソップも怖がり、ナミも怖がり。あ、ゾロがいるよ」
「ゾロも降りるみたいよ」
「え……。うーん……じゃあサンジくんに一緒にいてもらえるように言ってみるよ」
「それがいいわ」

ロビンちゃんとの話しがついたのか中に入ってこようとドアノブが音を立てて回ったから、慌てて近くにあった備え付けの椅子に座って煙草に火をつけて自然を装った。開いたドアから顔の半分だけ出してこちらを覗いてきたのはリリナちゃんだ。一つひとつの仕草がたまらなく可愛くて仕方ねェ。

「サンジくん」
「ん?どうかしたのか?」
「ロビンがね、島に降りるっていうの。一人じゃ怖いからサンジくんと一緒にいてもいい?」

キッチンに入ってくるリリナちゃんに付けたばっかりの煙草の火を消した。リリナちゃんは恥ずかしさを紛らわすためか体を小さく左右に揺らしながら相変わらず遠慮がちに聞いてくるリリナちゃん。普段滅多に上目遣いにならないのに今回に限って、ちょうどぐっとくる角度を決めた上目遣いだから体が熱を持つのが分かる。

「もちろん。リリナちゃんの役に立てるなら喜んで」
「ありがとう」

そう言って柔らかく笑ったリリナちゃんを見て心臓が存在を主張するかのように煩く鳴り出したせいで落ち着いていられなくなってきた。そんな状態のまま一緒に甲板に出ると、クルー全員が準備万端だというように揃ってた。島に行くのはルフィとフランキーとロビンちゃんとゾロか。ナミさんや他のビビり野郎共もいるが、リリナちゃんを守れるのはおれだけだな。