みんなで船を降りてナミ達を探しに出た。スリラーバークって書かれたゲートを潜るとすぐに長い下り階段があって、それを下りていったら大きいケルベロスがいた。いきなり嫌なものが出てきて心臓がばくばくしたけどルフィが伸してくれたおかげで特に何もなかったけど。
「よし!こいつ等に道案内頼もう!」
「おお、下手に違う道行くより効率的だな」
「なっ頼むぞ!」
ケルベロスを連れていくのにノリノリなルフィとフランキーが嬉しそうに大きいケルベロスの背中に乗る。あたし達の中で一番背の高いフランキーよりも大きい。怖い。
「見晴らしがいいな!リリナも乗れよ!」
「あ、あたしはいい!」
「おいルフィ!おれとリリナちゃんの世界を壊そうとすんじゃねェ!」
歩きながら高いところにいるルフィを見上げて話していると、隣にいるサンジくんがあたしの手をぐいって引いてみんなより先に歩き出した。サンジくんにしては少し乱暴だったけど特にバランスを崩さないでいられた。
人と手を繋いで歩いこと事ないからよく分からないけど、たぶん今サンジくんとあたしのこの距離は普通よりは近いと思う。だけど歩きにくくない。町で手を繋いで歩いてるカップルを見ると歩きにくそうだなあって思ってたけど、思ってたよりも歩きにくくない。比べるものがないから分からないけど、きっとサンジくんのおかげなんじゃないかと思うんだけどどうだろう。さっきも手を引っ張られても大丈夫だったのはサンジくんが加減を知ってるからなのかも。
(さすが、紳士だなあ……)
歩くだけで道端に変なゾンビがいて、その度にルフィが何も考えずに一味に誘うからゾロとサンジくんが止めに入るんだけど、ルフィも懲りなくてサンジくんもやけくそになってきてるし、ゾロはもううんざりしてる。サンジくんは繋いでる手を離してルフィを止めに行くんだけど、どうにか止めることができたらちゃんとあたしのところに戻って来て手を繋ぎ直すの。何回繋ぎ直したか分からないけどなかなか手を繋ぐ瞬間のドキドキに慣れなくて大変。
「さっきの木の人やユニコーンにもあったわね……」
「どうした」
「この森の奇妙な生物達の共通点は包帯、縫い傷、そして体に刻まれた番号」
「番号か……確かにあるな。何者かに管理されてるってことか」
「そうなるわね」
「ん?なんか聞こえるぞ?」
「ネガティブ ネガティブ」
「出たーー!ゴーストだー!!」
「ぎゃああ!!さっきの!」
「踊りながら増えてくぞ 面白ェー!!」
何もないところから急に出てきた、さっき船にもやってきたおばけ。しかも数が増えて三匹になった。マヌケな顔してるけど怖いことには変わりない。
「ネガティブ!ネガティブ!」
「感じの悪ィかけ声だな……」
なんとなく挑発してきてるような動きだけど、それに乗る気力は今のあたしにはないんだ。だって触らない方がいいに決まってる。
そんなあたしと違って好奇心旺盛なルフィはそのおばけを持ってたアミで捕まえようとしてるけど、アミがすり抜けて捕まりそうな気配はまったくない。フランキーが吐きだした火も特に効果なく終わっちゃった。
「ダメだ効かねェ。……全くダメだ。今週のオレホントにダメだ……何やってもまるでダメ。生きていく自信がねェ。……死のう」
「どこまで落ち込んでんだよお前は!」
あのおばけがフランキーの体をすり抜けたと思ったら、もの凄い弱気なことばっかり言い出すようになってしまった。それにルフィもフランキーと同じように地面に手と膝をつけて落ち込み始めた。どういうことなのか分からないうちに強気だったゾロまで。
おばけは構わなければ襲ってくるわけじゃないみたいで、少しの間様子を見てたらスーッと消えていった。やっと消えた事に一安心。心の中でもう出てこないように祈りながら消えたところを見つめる。
「ったく、もうあんなもん構わなきゃ襲って来ねェんじゃねェかよ」
おばけにやられた三人にブツブツ言いながらあたしの隣にサンジくんが戻ってきた。あたり前のことみたいに。それがなんだか犬みたいに思えて、面白くて笑っちゃったらそれに気付いたサンジくんと目が合った。
「だいぶ慣れてきた?」
「え?」
「ああ。笑ってるから慣れたのかなって思ってさ」
「うん、サンジくんのおかげ」
あたしを見下ろすサンジくんに笑いかけてそう言えば、はっとした顔をして手を繋いでない反対の手で胸のところぎゅって掴んで苦しそうに背中を曲げた。
「サンジくん!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫だ。……油断してた」
「油断?ま、まさかさっきのおばけが!?」
「いや、違うんだ。違う……」
「サンジくん!生きて!みんなついてるからね!」
「あ、ああ……」
「ふふ。あなた達見てると飽きないわ」