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触るとネガティブにされてしまうオバケは、気持ちが沈んだままのルフィとフランキーとゾロを残して木の中に消えていった。

気持ちをネガティブにされてしまったルフィとフランキーとゾロは、早くイライラするのをスッキリさせたいみたいで、足早に前を歩く。触れないんじゃどうにも出来ないのが余計にもどかしくてイライラしちゃうんだろうけど、とにかくいなくなって良かった。


そんなときに土の中から何かがモゾモゾしながら出てきた。一番最初に手が出てきたことに驚いて肩が跳ねた。そんなあたしに気付いたサンジくんが繋いでる手を引いて、あたしを後ろに隠してくれた。

「アーー…!」

低いうめき声をあげながら出てきたゾンビを、怖いもの見たさで前にいるサンジくんの陰から覗くとちょうどルフィが無理矢理土の中に返してるところだった。

「って帰るかアホンダラァー!」
「……大ケガした年寄り!?」
「ゾンビだろどう見ても!」

のんきなルフィにまくし立てられたのか、土の中からたくさんのゾンビが出てきたからサンジくんの陰に隠れた。

「ゾンビの危険度教えてやれェ!」
「なーんだやんのか。危険度ならこっちも教えてやる!……おいリリナ!お前ビビってたらあいつらに食われるぞ!」
「誰がそんなことさせるか!」
「土の中に引き込まれても知らねェからな!」
「っやややだ!」

ルフィに言われたことを想像して鳥肌が立った。食べられる。土の中に連れてかれる。そんなのやだ。後ろを向くとゾロが刀の柄に手をかけているのが見えた。ロビンは目を瞑って集中してる。ぎゅっと強く手を握られて前を向けばサンジくんと目があって、口角をあげて笑った。そのサンジくんの笑顔を見たらじんわり身体が温かくなって、少しだけ怖さも消えた。

「6億ベル・ジャックポット!!」

そんなあたしを他所にたくさんのゾンビはあたし達に襲いかかってきた。それを返り討ちにするように、ルフィ達は一斉に蹴散らした。数ならゾンビ達の方が多いけど危険度ならあたし達の方が上だったみたい。タイミングを合わせたわけじゃないのに息はぴったりだった。そんなことがなんとなく嬉しく感じる。


ルフィ達の圧倒的な強さに早いうちに降参したゾンビ達は、みんなでたんこぶを作って正座をした。ナミ達の話を聞いたら、目の前にある大きい屋敷の中に入ってったらしい。こんなにたくさんいるのに一人もいい顔色したゾンビはいない。あたり前だけどこれだけ変な顔が揃っちゃうと怖さを通り越してうんざりしちゃうな。

「んじゃー、あの中行くか」
「もし!……ち、ちょっとあんたら。待ってくれ!」

ゾンビ達に背中を向けて歩き出した途端に後ろから声をかけられた。薄暗い中でオレンジの優しいランタンの光が見える。

「今、見てたぞ。あんたら恐ろしく強いんだな。少し話をさせてくれねェか!?」
「大ケガした年寄り!?」
「だからゾンビだっつってんだろ!」
「イヤ、大ケガした年寄りじゃ」
「紛らわしいな!」
「ゾンビでいいだろもう」

声をかけてきた大ケガしたお年寄りはへなへなと力なく座りこんで、地面を見つめながら話し始めた。なんだか訳ありな雰囲気でこっちのみんなも静かになる。

「倒して欲しい男がおるんじゃ。あんたらならきっとやれる!被害者はいくらでもおるが……倒せば全員が救われる。影が戻れば礼ならいくらでもするし……」
「ホントだ。おっさんも影がねェな。ブルックと一緒だ!」
「そりゃ一体誰の仕業なんだ?この島に誰がいるんだ?」
「モリアという男だ。それはもう恐ろしい……」
「モリア?」

さっき船にいたときに頭の中に浮かんできたやつの名前があがった。当然というか、なんというか。

「もしかして……ゲッコー・モリアのことかしら……!?」
「ああ、そうさ。そのモリアじゃ」
「ロビン知ってんのか?」
「……名前ならよく知ってる。元々の懸賞金でさえあなたを上回る男よルフィ……!ゲッコー・モリアは七武海の一人よ!」

さすがは物知りのロビン。説明役があたしに回ってこなくて良かった。ゲッコー・モリアはオヤジ達の船に乗りたての頃にどこかの島で見たことがあったんだ。あんな奴どうってことないってオヤジが言ってたな。あ、そういえばみんな元気にしてるかな?

「そんな奴がこんなとこで何やってんだ?」
「さァ。わからんが、わしと同じ様にこの森をさ迷う犠牲者達も少なくない」
「他にもいるのか」
「あんたらもここへ誘われた時点でモリアに目をつけられたと思った方がいい。この地に残り暗い森を、ゾンビを恐れながら這い回る者……。海へ出てなお太陽に怯え生きる者。いずれにしろこんな体では生きている心地はせん……。死ぬ前にもう一度、太陽の光の下、歩いてみてェ……!」

話しながら涙を流し出した傷だらけのお年寄り。話の途中で、横からズビズビ鼻をすする音がしたから目を向けたらフランキーがお年寄り以上に涙を流してた。

「そうなのかおめェ。そりゃ辛ェなァ!よォし!おれが力んなるぜ心配ずんな!バカ泣いちゃいねェよ!」
「気持ちをわかりすぎだろ!てめェ軽く背負い込むな」
「まったくだおいジジイ!泣き落としはレディの特権だと思え!お前じゃときめかねェ!」

助けるのはまあいいとしても、その相手がゲッコー・モリアっていうのが引っかかる。

「まーでもよ!元々影を奪う張本人を探してたんだ。そいつがおれ達も狙ってんならぶっ飛ばすことになるし、おっさんもついでに助かるんじゃねェか!?」
「……あ、ありがてェ言葉だ!ついででも何でも希望が持てますじゃ!」

なるべくなら見たくないなあ。ゾンビとかオバケよりはマシだけど、なんかこう……気持ち的に顔を見たくない。

「やだなぁ……」