138

限りなくゾンビに近いおじいさんに道案内を頼み、お屋敷まで来た。内陸に来ても周りを薄暗くする霧は消えないままで、それをかぶった大きいお屋敷はまさにお化け屋敷っていう雰囲気が出ていた。あたしは変わらずサンジくんに手を繋いでもらったまま……。と思ったけどいつの間にか、がっちり両手でサンジくんの腕を掴んでた。今にもスーツの中に指がめり込んでいきそうなくらいに力も入ってた。気付かれないように隣のサンジくんを盗み見たら、いたっていつも通りだったから安心した。でも我慢してる可能性もあるから、さり気なく力を抜いてみた。


縦に大きい玄関扉には鍵がかかっていて、ルフィがそれを無理矢理こじ開けて中に入るとラッキーなことに誰もいなかった。嬉しいけど、なんだか少し怖い気もする。

「おーい、誰かいねェかー!?ゲッコー・モリアー!」
「これだけの屋敷で、使用人の一人もいねェのか?」
「何だ、この乱闘の後の様な部屋。まさかナミさんの身に……!」
「ブヒヒヒヒ。ご主人様の名を知ってなお、ここへ踏み込むとはたいした度胸」
「え!?壁からブタが生えてる」
「しゃべっ
「歓迎してやれ客人達を!!」
「ぎゃああああ!!」

立ち止まって様子を伺ってたら、飾りみたいなブタが喋った。しかも飾られてた額縁からツギハギの仲間がたくさん出てきた。こうなったらもう一刻も早くここから逃げるしかないよ。もうやだ怖い。早くここから出たいもう見たくない。

「あたしやっぱり先に船戻ってる!」
「お供しますよお嬢さん」
「いやああ!!」
「リリナちゃんに、気安く声かけんじゃねエェ!」

急に横から出てきたオバケにビックリしてる間にもうへにょへにょになってた。きっとサンジくんのおかげだ。逃げ出そうとしたことが申し訳なくなる。

「サンジくんありが……。……。」
「ん?ちょっと待て。あのぐるぐるコックがいねェぞ」
「え?」
「あり?さっきまでいたのに。サンジの奴どこ行ったんだ?」
「お前ビビりすぎてあいつのこと吹き飛ばしたんじゃねェのか?」
「…………」
「そういうわけでもなさそうね。驚きすぎて声も出ないみたい」

あたしが一瞬目を瞑ってる間にサンジくんがいなくなった。逃げようとしてサンジくんから離れたときにさらわれちゃったんだ。ちゃんと手を繋いでたらこんなことにならなかったのに。

「いつの間にか、なんかしやがったなコリャ。……惜しい男を失った」
「あのな」
「まーでもそうだな、サンジはいいか!」
「え?」
「だけどこんなゾンビ屋敷じゃ3人の方の救出は一刻を争うかも知れない」

いやいやいや。他の3人も大事だけどサンジくんのことももう少し考えてあげて?こんな変なものがいる島で1人なんだよ?絶対怖いよ、心細いよ。あたしには無理だよ。早く見つけてあげないと。

「ブヒブヒ……おめェらよォ。ちょっと強ェからって調子にのってんじゃねェぞ。仲間が消え去って心中ビビってんだろ!ザマァみろ!」
「とにかく勘で進むしかないわね」
「オイおめェら」
「このコ達を脅して本当のことを喋るとも思えないわ」
「じゃあこのブタ案内に連れて行こう」
「えーー!?」

不安に思うあたしを他所に他のみんなでサンジくんのことをほったらかしにする方向に話が進んでいく。いいの?こんなものだっけ?長い間この船にいるけど未だに掴めてないところがあって、たまにこうやって置いていかれるんだ。こういうのって疎外感って言うんだよね。

「へ、へへ……行け行け。我々のご主人様の恐ろしさを知るがいい」
「おれ達の、真のボスは王下七武海ゲッコー・モリ……おお!言えねェ!身が凍る!」
「おおおーーその名を口にしただけで身も凍りそうだ!」
「消えた仲間達はもう無事じゃ済まねェぞ。一人、また一人と仲間は減っていく。……後悔するがいい。七武海のゲッコー……いや、ご主人様の真の実力を前に誰一人助からねェ恐怖!」
「ゴチャゴチャうるせェな。じゃあそのモリアのバカに伝えとけ!おれの仲間の身に何か起きたらお前のこの島ごと吹き飛ばしてやるってな!」

さっきからツギハギがモリアの名前を怖がって言わなかったのにルフィがさらっと、しかもバカを付けて言ったからブルブル震えてる。そんなにモリアって怖いやつだったっけ?ちょっと気味の悪いだけだったような。

ってそんなことよりサンジくんだよ。あたしは誰に守ってもらえばいいの?サンジくんがいなきゃここから動けないのに。

「第一サンジは放っといても死にゃしねェんだ。だからそんなビビるこっちゃねェだろ!」
「怖いものは怖いの!」
「しょうがねェな。じゃあサンジの代わりにおれが手繋いでやるよ!」

ん。って真面目そうな顔をしてルフィが手を出してきた。その手はあたしの目の少し下に伸びてきてて、握りにくいしもう少ししたら顔に当たってたかもしれない。サンジくんみたいに丁寧じゃない。けどここはもうルフィに頼るしかない。

「あら、良かったじゃない」
「………」

渋々その手を握るとぐって握り返されて、すぐに前に歩き出したルフィのおかげでつんのめった。デジャヴなんかじゃないよ。ルフィはバランス崩したあたしなんかそっちのけで歩いて行っちゃうんだもん。サンジくんとは天と地の差だよ。一秒でも早くサンジくんが見つかりますように。