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ルフィは確かにあたしの手を握って歩き出してくれた。歩き出してすぐの階段を上りきった後にはもうあたしの手から離れていってしまった。ルフィを繋ぎ止めておくのはとても難しい。


あれからゾロもいなくなっちゃって、さっきのツギハギが言ってた通り一人ずついなくなっていってる。次はルフィ?それともロビン?フランキー?もしかしたらあたしかもしれない。考えればその分だけ悪い方向に考えちゃって気持ちが沈んでいく。

「はあ……」

しかもたくさんの鎧に囲まれて、大広間から逃げてきたと思ったら他のみんなとはぐれちゃって一人ぼっちになった。一番恐れてたことが起きてしまった。ここまで散々な目に遭ってきた。オバケが苦手なの分かってるんだからみんな気を使ってくれてもいいのに、なんて自分勝手な考えすら浮かんでくる。

早くみんなと合流したいけどここから動いたらゾンビ達にあうから動きたくない。だからみんなが迎えに来てくれればいいけどきっとそんな事にはならないだろうな。

「やっぱり自分で動かないと……」

周りに誰もいないことを確認してから、隠れてた木の陰から離れて歩き出す。まだ誰もいないけど怖い。いつ見つかってもおかしくないこの状況に怖がる自分をどうにか奮い立たせて、前に前に足を動かす。ロビン達がいるところよりウソップとチョッパーがいるところの方が近いから、そっちに向かって歩く。

ただ怖い。とにかく怖い。壁一つないだけでだいぶ違う。サンジくんの力は偉大だ。


こんなに見聞色を活用したのは初めてかってくらい、あっちこっちでうろうろしてるゾンビに意識を集中するのに必死になる。ウソップ達と合流しなくちゃいけないっていう目的はすっかり後回しにして、まずはゾンビに遭わない事を最優先にしなくちゃ。

「っうぎゃぶっ!!」

カラン、と後ろの方で物音がしたのに反応して顔を後ろに向けたのと同時に足元に何かが引っかかって盛大に転んだ。しかも敏感になってたせいで、ちょっと足に引っ掛けただけなのに大袈裟だし、咄嗟でも可愛げのない声が出たもんだ。しかも受身がとれなくて鼻のところ強打して痛い。ダブルパンチ。

「いだー……。ゾンビにばっかり気取られてたから足元なんてぜ、……ぎゃああああああ!!」


・ ・ ・ ・ ・



「ん?今リリナの声聞こえなかったか?」
「え?リリナ!?」
「別に聞こえなかったけど」

バカデカい巨人が動き出してビビったおれ達は思わず声を上げちまって、くまに隠れてたことがバレた。ホグバックとかいう奴らが巨人に気を取られてる隙に逃げてきたが大丈夫だろうか。無事に逃げきれんのか?まさかあの巨人に食われたり、踏み潰されたり……いや、いやいや。そんなこと考えるより一刻も早く離れよう。と思ってた矢先にリリナの声がどこからか聞こえた。悲鳴みたいな声だったんだが他の二人には聞こえてなかったみてェだ。

「おかしいな……。ハッキリ聞こえたんだけどな」
「ナミイイィィ!!!」
「ぎゃあ!!」
「ホントにリリナだ!」

噂をすればなんとやら。おれ達が走っている通路と違う道からいきなり現れやがった。しかも大泣きしてぐちゃぐちゃの顔をして。こいつもビビってたから怖い思いをしたんだろうな、簡単に想像つくぜ。

「オイ 他の奴らは?」
「ガイコツ!ゾンビ!オバケぇ!!」
「落ち着けって!お前一人か!?」
「ひどりだよおぉー!」
「ロビン達はどうしたの!?」
「はぐれだ!」
「とにかくあんただけでも合流できて良かったわ!しっかりしなさい!もう大丈夫だから!」

大泣きしながらおれ達についてくるリリナを落ち着かせようとしてると、どこからか銃声が聞こえた。それと同じくして自分の身体が焼けるように熱くなって体の自由が利かなくなって、降りていた階段を滑るように落ちた。

「ウソップ!チョッパー!」
「え?」
「痛い!ちょっと離してよ!」

ナミの声が聞こえて軋む体を動かして声のした方を見ると、ツギハギの透明人間がナミを片腕に捕まえておれらを見下ろしていた。

「別れでも言っておくか?この女は今日おいらに嫁ぐ」
「バーカ!女一人守れねェで男ウソップ生きる価値なし!」
「うおー!ウソップその武器!」
「"六連蝮星"!!」

カブトを構えて新技でナミを抱える透明人間を狙い撃つが、玉が当たるよりも先に奴が消えた。しかもナミも一緒に。

「ナミまで消えた!」

完全にナミとあいつの姿が目で見えなくなって、隣のチョッパーが匂いが他の何かの匂いでかき消されたと騒いでいると、おれとチョッパーの間を通り抜けるように風が吹くとリリナが何もないところに蹴りかかっていた。さっきまでの泣き顔が嘘みてェに真剣な顔して。

「あの時船に乗ってきたのはこいつね!オバケでもなんでもない!」
「さっきは腰抜かしてた小娘が、ずいぶん威勢がいいじゃねェか」
「ナミを返して!」
「だがおいらにはお前の相手などしてる暇なんてないんだ。一刻も早く挙式を……」
「そんなこと!」
「ゾンビ共、後は任せた。二人を捕らえてモリア様の下へ」
「どこから喋ってんだ」
「ゾンビ!!」
「え?……うお!」

リリナの震えた声が聞こえたと思ったら上から斧が落ちてきて咄嗟に避ける。よく見りゃ上からも下からもぞろぞろと湧き出てきやがって、あっという間に囲まれる。頼みのリリナもすっかりこいつ等にビビっちまって取り乱してる。

「畜生!キタねェぞお前ら 不死身で集団なんて!おれ達まで捕まるわけには……!」
「くそォ!放せ!くそォ!!」
「ぎゃああああ!」
「アウ!アウ!おれの弟分達から手ェ離せやコラァ!」

おれもチョッパーも手足を掴まれて身動きが取れず完全に取り囲まれたとき、すぐ近くて聞きなれた声があがった。

「アニギーーーっ!!」
「ロビーーンっ!!」
「間を外したか、一人足りんぜ」
「みんな怪我はない?」

大人二人の登場に感極まって涙目になる。助かった、本当に助かったぜ。おれァ一回影を奪われたら奪い返せねェ自信があったんだ。もうダメだと思ってた。