おれらの影はあのガイコツアフロと同じように奪われていた。それどころか大量にあった食糧も保存のきくもの以外は持ち去られてるし、何よりナミさんが島に降りる前に現れた透明人間に連れ去られたということだ。この船の大事なレディを守れねェなんて情けねェ男だ。
全員で得た情報をそれぞれ報告していくと、どうやらこの島には七武海の一人が住んでいて、そいつが手下共といろんな奴らから影を奪ってゾンビ共に委ねているらしい。そして連れ去られちまったナミさんは透明人間と結婚させられちまうんだと。そんなの……!
「クソ許さーん!!」
ナミさんは、ナミさんはおれがこれから航海していく上で必要不可欠なのに。それなのに訳のわからん野郎と結婚だと!?一歩も譲れねェ!ナミさんに言われたって譲ってなんかやらねェ!そんなのナミさんの幸せに繋がるわけねェだろうが!男なら女の幸せを一番に考えやがれ!
「ナミと結婚なんて勇気あんなァ。……そんでおれが巨人?ゾンビってそうやってできるのか」
「じゃあルフィとあのコックのゾンビは確認済みってわけだな?ウソップ」
「あ、あいつが七武海の一人だったなんて……!」
「急に恐くなってきたおれ……」
「知らなかったのか、おめェら」
「ん?そうか、ゾンビが本人みたいになっちまうんなら、おれゾロのゾンビ見たぞ!?」
「どんなんだ」
「んー似た感じだったぞ。ゲタはいてたからお前じゃねェとわかったけどな」
ひとまず、どうにかしてナミさんのことについてはざわつく気持ちを抑えて今の状況を把握することにした。おれの影は小さいペンギンに移されているらしい。だが影だけになってもレディを大切にする意志を忘れてなかったとは、我ながら良くやったと思う。ルフィの影は屋敷の中にいた巨人に移ったというわけだが、どうも引っかかる。とてつもなく面倒くさいことになるんじゃないだろうか。
「まァ何でもいいが。じゃあその3人のゾンビを探し出して口の中に塩を押し込めば影は返ってくんだな?しかしそんな弱点までよく見つけたな」
「弱点にしろお前らをまず救出に来たことにしろ、助言をくれたのはあのガイコツ野郎だ」
「えーっ!?ブルックに会ったのか!?」
「会った。……会って、ヤボな質問しちまってな。いや、お前が初めにアレを仲間にすると連れてきた時にゃさすがに存在ごと完全否定してたが……あの野郎ガリガリのガイコツのクセによ、離せばなかなか骨がある。ガイコツだけに」
「………」
「あいつァ男だぜ!!」
「……どんな話したの?」
そこで初めて、リリナちゃんが口を開いた。さっきから距離があるのは気のせいなんかじゃないはずだ。確実におれと距離をとってる。しょうがないことではあるが堪えるぜ。今もさり気なくおれとの間にルフィを置いている。
「あいつ……自分の帰りを待っている仲間のとこに戻るんだって言っててな。50年も前の約束らしいんだが、そいつが今もまだ自分らのことを約束した岬でずっと待ってるかもしれねェって。あいつがまだ仲間と一緒に航海してるときに若いラブーンっつぅクジラを仲間にして、そいつと海を渡ってたんだがそいつを連れて海を渡るにゃ危険が大きすぎるってんで、岬に置いてきたらしいんだ。また必ず迎えに戻ってくるって約束をつけて。……今はもう一人になっちまって、自分自身もあんなになっちまったがその約束だけはどうなっても必ず果たす気でいるんだ」
「ラブーン」
「あいつだ……」
「ホントかよ……」
「……あいつって?」
「おれ達知ってんだ。そのクジラ」
「何!?どういうことはるだ!?」
「
「……とんでもねェ話だ。50年も互いに約束を守り続けてたんだ!」
「まさかあのラブーンが待つ仲間の一人が、あのガイコツだったとは」
おれ達がこのグランドラインに入るとき、レッドラインを越えた双子岬の先にいたクソでけェクジラがラブーンだ。確かに岬に住んでたじいさんが仲間の帰りを待ってるって言ってた。だがそんな50年も前の約束だったなんて。そりゃそんだけ長く待ってりゃあんだけデカくもなるぜ。
「ウォオオーー!骨も鯨も大好きだチキショー!」
「うるせェよっ!」
「うはーっ!ぞくぞしてきた!あいつは音楽家で!喋るガイコツで!ヨホホで!ラブーンの仲間だったんだ!おれはあいつを引きずってでもこの船に乗せるぞ!仲間にする!文句あるかお前ら!」
「ふふっ、あったら意見が変わるのかしら?」
「そんな話聞いちゃったら頷くしかないね」
「会わせてやりてェなァあいつ!ラブーンに!」
忘れてはいたが一つ謎が解決した。そんな話に繋がってたなんて思いもしなかったが、まさかこうやって片側の方にも会うなんて思ってなかった。世界って狭いな。
「賛成だチキショーー!」
「これもだコンニャローー!もうガイコツ恐くねェっ!」
「そんな分かりきったことより!ナミさんの結婚阻止だ!おれァ!」
「ゾロ!どこ行くんだ?」
「さっさと乗り込むぞ。奪い返す影が一つ増えたんだろ?」
「しししし!よっしゃァ!野郎共っ!反撃の準備をしろ!スリラーバークを吹き飛ばすぞォーー!!」
まりもヘッドかっこつけやがって。てめェが一人で乗り込んだってただ迷子になって終わりじゃねェかよ。
「しかしおれ達の影の入ったゾンビっての探し出すのは一苦労しそうだな」
「それに!本当に!ルフィのゾンビはとんでもねェんだぞ!普通の巨人の2倍はあるんだ!お前らでも勝てるかどうか……!」
「ゾンビなんて探さなくていいよ!おれのゾンビは見てみたいけどな」
「何言ってんだ。おれ達ゃこのままの体じゃ二度と太陽の下へ出られねェんだぞ」
「だってお前……あの時ゾンビのおっさんが言ってたろ。ゲッコー・モリアをぶっ飛ばせばみんなの影が戻るって!」
ルフィの放った言葉に皆口を閉ざす。確かにあのじいさんはそう言ってたがおれは今聞くまで忘れてたし、そんなことをルフィが覚えてたとはな。こいつたまに鋭いところあんだよな。
「で、あの階段登ったらモリアがいるんだろ!?」
「うおっ!確かに!」
「とにかくまーおれはモリアをぶっ飛ばしに行くからよ!影はそれで全部返ってくるから、サンジ!お前ナミのこと頼むぞ!」
「当ったり前じゃアア!透明人間だか陶芸名人だか知らねェが霧の彼方へ蹴り飛ばしてやらァ!!結婚なんざさせるかァーー!!」
「言い忘れてたがあの透明人間、風呂場でナミの裸じっくり見てたぞ
「ぅんぬァアアアにィイイイ!?」
勝手に結婚だけではあきたらずナミさんの入浴シーンを見てただとォ!?おれの叶わぬ夢をそいつは簡単に果たしやがったってのか!怒り狂ってどうにかなりそうだ!今なら何にでもなれる!