014

「ルフィー、さすがに疲れたよー。もう暗いし休もう。寒いし」
「そうか?じゃ、休んでろ」

たぬきくんを探し始めた頃は明るかったけど、いつの間にか暗くなってて気温も一段と下がってきてる。
結構な時間をかけてるのになかなか捕まらないたぬきくんを飽きもせず追いかけるルフィの執念に負けたあたしは、ついに飽きに負けてお城の中へ入ることにした。

「あ、その前に城の上見て来てくれよ!」
「はーい」

軽く地面を蹴ってお城の上にあがるとずっとお目当てだったたぬきくんがそこにいて、突然現れたあたしにたぬきくんは驚いている。

「一緒にいいかな?」

そう聞くと遠慮がちに場所をあけてくれたから、お礼を言って少しだけ距離を置いて座った。

「あたし、リリナ。はじめまして」
「……おれは、チョッパー」

緊張しているのか小さなたぬきくんは遠慮がちにこちらを見上げては、目が合うと顔ごと逸らしてもじもじと蹄を擦り合わせている。

「チョッパーね、よろしく。仲間になるんだよね?」
「おれは、行けないっ」
「……どうして?」

もじもじしていた体が止まって、今度は何かを振り切るように首を横に振った。でも顔は俯いたまま。

「おれは、お前たちとは違う」
「……。実はあたしね、みんなの仲間じゃないんだ。本当は違う海賊団に入ってるんだ」
「じゃあ、なんで」

そこでやっと顔をあげてあたしを見てくれた。でもその顔は不思議なものを見るような顔だったから、すぐに話を進めた。

「ルフィがあたしを仲間にしたいって言ってくれたからだよ。1人だったあたしを船に乗せてくれて、いつ襲われるか分からない敵なのに、それでも純粋に仲間にしたいって思ってくれたから。本当に仲間じゃないんだけどね」
「っで、でもおれはトナカイだ!お前たちと違って角も蹄もある!それに、青っ鼻だ!」
「それを、ルフィに言ってごらん?」

苦しそうに話すチョッパーににこり笑って言うと、またさっきの不思議そうな顔になった。

「あたしに言ったことと、同じことを言ってみて」

それを聞いたチョッパーはまた下を向いて、お城の前で叫んでるルフィを不安げに見下ろしてたから、大丈夫だよって言うと小さく頷いてから下に降りてった。

「あ、トナカイ!おいお前一緒に海賊やろう!」
「……無理だよ」
「無理じゃねェさ!楽しいのに!」
「……おれは、お前たちに、感謝してるんだ!……だっておれは、トナカイだ!角だって、蹄だってあるし!青っ鼻だし!そりゃ、海賊にはなりたいけどさ!おれは人間の仲間でもないんだぞ!バケモノだし!」

上からじゃどんな顔をしてるのかわからないけど声が泣きそうになっている。むしろ見えないだけで涙が流れているかもしれない。周りと違う見た目というのがどれほど恐ろしいものか、あたしには分からないけどそれを受け入れてくれる人はこの世界にたくさんいるはずだから。それを知ってほしい。

「おれなんかお前らの仲間にはなれねェよ!……だから、お礼を言いに来たんだ。……誘ってくれてありがとう。おれはここに残るけど、いつかまたさ、気が向いたらここへ」
「うるせェ!いこう!!」

何か言っていたチョッパーの声を遮る様にルフィの大声が響く。チョッパーは自分をバケモノだって言ってるけど、そんなことない。人間と違う形をしているからバケモノだなんてことないし、人間だってバケモノみたいな人この世界にはたくさんいる。だからルフィ達と海を渡って確かめればいいんだよ。


チョッパーがお城の中へお別れをしにいってる間ここで待つことになってウソップと雪で遊んでいるとゾロがウソップの作ってた雪だるまを蹴って壊しちゃって2人でブーブー言う。

「あっそうだゾロ!おみやげね、いま作ってあげる!」
「……は?」

ゾロにおみやげをあげる約束してたの忘れてた。よかった、思い出して。早速まわりから雪を集めて作り始める。

「できた!即席ホワイトメリー号!」
「は、え?メリー?これがか?……ただの山だろ」
「え?メリーだよ!ここがツノで、ここが目で、口だよ」

眉間に皺を寄せてメリーを見てるゾロに先程と同じように説明をしても、更に皺を深くするだけだった。ちゃんと詳しく教えているのに分かってもらえないなんて、もしかしたらあたし……芸術的センスがあるのかも。

「何だ、城の中が騒がしいぞ」
「まったくヤボなんだから。人の別れの夜にどうして静かにしててあげられないのかしら」
「えっナミ!?」

自然と会話の中に入ってきたナミに驚くと笑顔を向けてくれた。自分で立ってたり苦しそうな表情が一切無くなっていて感極まってナミに抱きつくと気付くの遅いって軽く頭を叩かれた。

「リリナ、あんたもありがと」
「あたしなんもしてないよ!」

ナミにありがとうなんて言ってもらえることはしてないのに、十分よって言われて首を傾げる。

「ん?……おい来たぞあいつが」
「え!?どういうこと!?」
「追われてるっ!」

お城の中をみると確かにチョッパーが追われてる。おばあさんだ。そしてよく見るとナイフを振り回しながらチョッパーを追いかけている。

「みんなソリに乗って!山を下りるぞォ!」

チョッパーを追って来ているドクターの形相をみて慌てたみんなと一緒にソリに乗ろうとしたら、直前でソリに轢かれてホワイトメリー号が崩れてしまった。

「ホワイトメリー号が!」
「お前はいつまで遊んでんだおい!」
「あ、うわあ!」

それに気を取られて乗り遅れそうになったあたしを誰かが引き寄せて無理やりソリに乗せた。
驚いて目を見開くと今度は真っ暗の中空を飛んでいるような風景が目に映って釘付けになる。真っ暗だけど町の灯りが所々見えて星みたいで言葉を失くしているとすぐに地面に着いてしまった。けれどまだ頭の中はその光景でいっぱいで身体中がほんわかした。

ちょっと走ったところで後ろのほうから砲撃音が聞こえてソリを止めた。何発か聞こえたとき、さっきまでいたドラムロッキーの山の山頂付近がピンク色に染まってまるで大きい桜の木みたいで、思わず息が漏れる。

「雪の中の桜かあ……」

あたし達はただ綺麗だと感じて楽しむことしか出来ないけど、きっとあの桜はチョッパーにとって背中を押す大きな勇気に変わったはず。