143

モリアが加わったおかげでとってもやりにくくなったし、オーズの体がルフィにみたいに伸びるようになったから更に威力があがって厄介になった。ブルックの捨て身の一撃はオーズの右肩を貫いた。けれど自分の体に対する負担も大きくて動けなくなったところをオーズに叩き潰された。

オーズの伸びる体の原因になってるモリアの動きをロビンが能力で止めさせたけど、影をうまく使われてロビンの影まで奪われてしまって気を失って倒れた。

みんな果敢に向かっていってもオーズの大きさと一撃の重さに敵わなくて倒れていく。

「あーその小さいの。誰かと思ったら白ひげの一人娘じゃねェか。お前まだ自分の船に戻ってなかったのかよ」
「人の勝手でしょ!」

オーズのお腹の中から遥か下にいるあたしを見下してわざとらしく言うモリア。とっくに気付いてたの知ってるし、その事ことにあたしが気付いてるのを分かってても言ってくるあたりがいつもと同じなのにやっぱり癪に触る。

「早く帰らねェとお前んとこの船長うるせェんじゃねェか?お前は一人娘だろ」
「そんなことあんたに言われる筋合いない!」
「それともあれか?長くいすぎて帰りづらくなったとかじゃねェよなァ!?」
「そんな、んじゃ……」

本当のことをすんなり言い当てられてチクッて胸が痛んだ。今度は強く言い返せない。そんなあたしを見てモリアは影を作るように笑った。乗せられちゃいけないのは分かってる。デタラメなこと言われれば流すことだってできるのに、何一つ間違ってない本当のことを言われてしまうと言葉が見つからない。

「悲しむぞ!そんなこと言ったら!お前のオヤジが!仲間だと、自分の娘だと思って帰りを待ってるやつが、まさか偶然助けてもらったどこの誰だか知らねェ奴らと仲良く海を渡ってると知ったら!帰る気を無くしてたら!裏切られたのと同じだ!」
「ちがっ……」
「あいつは必ず帰ってくると信じきってんだ!そりゃ疑うはずもねェ!自分の事を父親と呼んでくる娘なんだからな!」

勝手なこと言わないでって思ってる裏側では、真に受けてしまっている。だってそうだよ。あたしは今こうやって楽しみながら良くしてくれる人達の船に乗せてもらってるけど、オヤジは今もあたしのことを心配してくれてるかもしれない。新聞に載ってるあたしを見て生きてることは分かってると思うけど、オヤジはいろいろ気にかけてくれるところがあるから心配してるかも。他のみんなだって……。

それにまだこの一味の仲間になったわけじゃない。そうだった……何を勘違いしてたんだろう。船に乗せてもらって、いろんなところに行って一緒に新しい仲間を迎えても、自分が仲間になったわけじゃないのに。あたし、この船のクルーじゃないんだよ……。

「てめェ!根も葉もないこと言うんじゃねェ!!」
「キシシ……」
「……かえ、……い……」
「リリナ気にしな、後ろ!!」

誰かの声が聞こえた。後ろに何かがいるって。でもあたしは今すぐ反応できるだけの余裕がなくて気付くのが遅れた。ざっくり何かが切れるような感覚と一緒に瞼が重くなって意識が遠くなる。身体に力が入らなくて、もういいやって抵抗さえしないまま瞼を閉じた。



目を覚ましたときにはオーズがゆっくりと壁から体を起き上がらせてるところだった。ボーッとする頭をそのままにあたしもゆっくり意識がはっきりするのを待ってオーズを見上げる。

「……うわ!起きてた!風弄ふうろうのリリナが目を覚ましたぞ!」

周りには他の海賊団らしき人がたくさんいた。それに紛れるように麦わらの一味のみんなもいる。それからいなかったはずのルフィも。

よく見るとオーズの体は傷だらけで、麦わらの一味のみんなが繰り出す連携技に体が追いついていかないみたいでされるがままの状態。オーズの頭の上からルフィが真っ直ぐ落ちてきて、腕を巨人の手みたいに大きくしてオーズの顔を両手で押しつぶす。チョッパーが背骨が真っ直ぐになった状態だと衝撃を和らげる事ができなくて、こう……ダメージを全部背骨で受けることになるんだって。とにかく作戦勝ち。


ゆっくり倒れたオーズを見て周りにいた知らない海賊達が嬉しそうに騒ぎ始めた。この周りのみんなは何なんだ?なんでいきなり現れたんだ?こんなにたくさん。それから今度はモリアを起こして影を取り戻そうって騒ぎ出す。わーわー話してる端でオーズのお腹からモリアが出てきた。

「起こすにゃ及ばねェ……!」

モリアが起き上がったことに喜ぶ手下達のゾンビと、さっきまで騒いでた海賊達は怖がって後ずさりをする。

「め、目を覚ましたなら丁度いいわ!さァ……む、麦わら達にまたブチのめされたくなかったら!私たちの影を全部解放しなさい!」
「キシシ……ガキのケンカじゃあるめェし……。本物の海賊には死さえ脅しにならねェ。おめェら森の負け犬共が関わっていたとは。麦わらの過剰なパワーアップの謎が解けた……!このおれのカゲの能力を利用するとは……忌々しい」
「……う、うっさいわよ!影返しなさいよ!」

周りの知らない海賊達の中でわりと目立ってる、いろいろ大きい人がモリアと対峙する。なんだかどこかで見たことあるような、ないようなそんな顔。でもたぶんよくある顔だからそう感じるのかも。気のせいだ、気のせい。

「麦わらァ。てめェよくもおれのスリラーバークを、こうもメチャクチャにしてくれやがったな……!」
「お前がおれ達の航海を邪魔するからだろ!日が差す前に早く影を返せ!」
「航海を続けてもてめェらの力量じゃ死ぬだけだ。新世界には遠く及ばねェ……!なァ……"風弄ふうろうの#ナマエ"」
「…………」

モリアの不気味な目があたしを見た。言われた言葉に何かが含まれてるようなそんな感じ。負けじと睨み返せばまた笑った。人の反応を面白がってるみたいに。

「なかなか筋のいい部下も揃ってる様だが全て失う!……なぜだかわかるか!?」

焦らすような話し方に周りの海賊達がルフィを急かす。もう朝日はすぐそこまで昇ってきてる。本当にもうすぐで太陽の頭が見えそうだ。

「おれは体験から答えを出した。大きく名を馳せた有能な部下達をなぜおれは失ったのか!……仲間なんざ生きてるから失うんだ!全員が始めから死んでいるゾンビならば何も失う物はねェ!ゾンビならば不死身で!浄化しても代えのきく無限の兵士!おれはこの死者の軍団で再び海賊王の座を狙う!てめェらは影でおれの部下になることを幸せに思え!」

あたしが初めてモリアを見たときもオヤジに同じようなこと言って怒らせてた。考え方は人それぞれだけどおれの前で二度と言うんじゃねェってね。その時の光景が浮かんできたから、こんな時にオヤジ初めてどうしてるかなって考えた。まだ寝てるかな。オヤジもオヤジだからもう起きてるかもしれない。

のん気なことを考えてる間にモリアが島中の影を集めて巨大化してた。けどなんだか苦しそう。

「おいみんな!もう時間がねェ!ちょっと無茶するからよ!その後の事は頼むっ!」
「よし任せろ!」
「ブッ飛ばせェー!!」
「悪夢を見たきゃ勝手に見てろ!モリア!おれはお前に付き合う気はねェ!」

ルフィが好き勝手思いのままに行動できるのはこの一味だからこそなんだと思う。慣れっていえば慣れだけど、みんなルフィのことを信頼してて、ルフィも他のみんなを頼りにしてる。この一味は暖かくていい一味だ。