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あれからすぐ支度を済ませてビーチに降りるとリリナちゃんはフランキーに泳ぎを教えてもらってるとこだった。今度はフランキーか。
……なァリリナちゃん、変態は嫌いなんだろ?今君が泳ぎを教わってる奴こそ正真正銘の変態なんだぜ。いいのかい。同じ変態ならおれの方が何千倍も絵になるってのに……。

「あら。リリナと何かあったの?」

パラソルの下でドリンクを飲んでいたロビンちゃんがいつものように頬杖をついて聞いてきた。さすが、鋭いですね。その表情とても艶美で素敵だ。

「いや……」
「怒らせたの?リリナのこと」
「あ……」

歯切れの悪いおれを置いて話を進めたナミさんは口角をあげて笑っている。おれをからかう気満々そうな顔だ。……この二人のレディはおれをどうしようってんだ。

「誘ってもらっといて申し訳ないがおれは今そういう気分じゃ……」
「何を履き違えてんのよ!変態!」

変態……。相手は違うが同じワードを言われて無惨に心に突き刺さった。ああそうだそうやっておれはさっきリリナちゃんに嫌われたんだった。同じ誤ちを繰り返すなんておれはとんだマヌケ野郎だ。ため息が止まらない。

「大丈夫?」
「ああ、なんとか……」

テーブルに上半身を預けて、ビーチで楽しそうに泳ぐリリナちゃんを見つめていると、何だかすげェ遠くにいるように見えてきた。いくら手を伸ばしても届かないくらい遠くにいるみたいに……。実際に手を伸ばしても届かないのが余計にその感覚を加速させる。なんて虚しいんだ。

「……話聞いてないわ」
「重症ね。深いところまで沈んで溺れてしまってるみたい」

ロビンちゃんの言う通りだ。おれは底なし沼のようにもがいた分だけ深くに沈んでいく。そうなればもう相当深いとこまで沈んでるはずだぜ。そのくせおれを解放してくれやしない。解放される気はないがおれに打つ手がなさすぎる。

「ちょっと休憩」

沈んでるおれの耳に聞こえた声はリリナちゃんのものだ。弾かれたように顔をあげるとバッチリ目が合った。さっきは良く見えなかったがリリナちゃんが着てる水着、白い肌に良く映えるロイヤルブルーが基調で落ち着いた白と黄色の花柄で大人っぽいんだがアンダーとウエストにさりげなく施されてるレースがリリナちゃんらしくさせていて良く似合ってる。ああ可愛い。こんな可愛いリリナちゃんがいるのに一緒に遊ぶことができねェなんて、まさか怒らせちまうなんて。

「そんなに熱っぽい目で見たってもうリリナはいないわよ?」
「え……」

ロビンちゃんの声で我に返るとリリナちゃんがいたとこにはもういなくて、今度はチョッパーと浮き輪に乗って少し沖の方で遊んでいた。いつの間にあんな遠くへ……。恋ってこんなにも辛いものだったっけなァ。



昼はタコライスを用意した。よく食う野郎にはウォーターセブンで貰ってきた水水肉の残りを煮込んだものを追加して。リリナちゃんとはその間も一言も喋らなかったが幸せそうに食べて完食してくれたのがせめてもの救いだ。

「リリナ!」
「……オルジ!」

そして昼も過ぎてナミさんが日焼けを始めて、ロビンちゃんと波打ち際でビーチバレーをして遊んでいたリリナちゃんのもとにいきなり現れた野郎は気安くリリナちゃんの名前を呼びやがった。