「……何で、ここに?」
「お前を迎えに来たからさ」
ビーチで騒ぐおれ達のところに急に現れた男は馴れ馴れしくリリナちゃんの傍まで歩みを進めた。何なんだこいつは。海賊か?海兵ではなさそうだが。迎えに来たって何のことだよ。
「お、ずいぶん色っぽいな。良く似合ってるよ」
「あたしを迎えに来たって、どういう事?」
おれだってまだ水着のこと触れてなかったのにあの野郎先に褒めやがって!何なんだてめェは!リリナちゃんと距離を詰めるスカした男から目を離さず一歩だけ後退りした彼女の瞳は困惑していて、眉が中央に寄せられて小さい皺を作っていた。その表情にどうしようかと考えていた思考回路が定まって、リリナちゃんを自分で隠すように男の前に立った。
「ちょっと待った。聞いてる限りリリナちゃんの知り合いなんだろうが、これ以上は近付くな」
「……ああ。お前が黒足のサンジか。手配書の絵、ずいぶん盛られてるな」
「うるせェ!てめェは一体何なんだ。得体の知れない野郎はリリナちゃんに近寄んじゃねェ!」
こいつおれ等のこと知ってるみたいだな。手配書のこと、やっと忘れられたっていうのにえぐり返すんじゃねェ。正面の男を睨みつけるとそいつは肩を竦めて戯けたような態度をとった。わざとらしさに自然と眉間の皺が深くなる。
「サンジくん……」
「あーすまない、おれはオルジ」
「オヤジ?」
「オ・ル・ジだ!!……さっき町でリリナを見かけてからずっと探してたんだ。さァおれと行こう」
おれの話を聞いたんだか聞いてねェんだか分からねェ男は少し的外れな答えを返して、おれの陰からそいつの様子を伺うように控えめに顔を覗かせていたリリナちゃんに手を差し出した。
「ちょっと待て!勝手に連れてくな!リリナはおれの仲間だ!」
「仲間?リリナ、お前はこんなひょろひょろ一味の仲間なのか?」
「ひょろひょろだアァ!?」
男の勝手な行動にたまらず横にいたルフィが声をあげた。
「…………」
「お前はこんな奴らといるのだってお遊びだろう?そして君らだってこんなとこに来たのもまぐれだろ?よかったな、ここまで来れて」
「まぐれだとォ!!?おれは海賊王になる男だ!遊びでここまで来るわけねェだろうが!!」
「どっちかっていうとおれらより君らの方がおちゃらけてるように見えるがな」
長ったらしい前髪を掻きあげながら言うスカした男にイライラが増してくる。それはおれだけじゃねェみたいで野郎達は全員拳に力が入ってるようだ。ゾロは刀の柄を握ったまま男を睨みつけてやがる。あいつがリリナちゃんに少しでも触れやがったらオロしてやる。
「つーかてめェリリナちゃんとどういう関係だ」
「なんだ、ずいぶん気になってるみたいだな。大したことないんだ。リリナがまだ白ひげのとこに入る前におれの船に乗るように勧誘したんだ」
「……ほんとに大したことねェな」
男が言ったとおりの大したことない関係で拳を握る手の力が緩まって、代弁するようにウソップが突っ込んだが、それもいつものキレはなく気が抜けた声だった。
「まァそのときは断られて潔く身を引いたがな」
「嘘だっ。すっごいしつこく迫ってきたから怒ったエースにこてんぱんにやられてた!」
「……リリナがつっこんだ!」
「すげェ、初めてだ!」
このレアな事態にスカした男そっちのけで、ウソップに吃驚した顔で見つめられたリリナちゃんは照れた顔をしておれの陰に隠れた。ツッコミリリナちゃんもレアでキュートだったが、おれを盾に隠れるリリナちゃんも小動物みたいでクソ可愛い。癒される。しつこく茶化すウソップと、すごいすごいとまるで親か兄のように褒めるフランキーが加わっても相変わらず照れたままのリリナちゃんは未だにおれを盾にしてくれている。おかげで嫌われている最中な事はすっかり頭の外に吹き飛んでってた。
「まァ単純におれより火拳の方が強かったってだけだ」
「あの時の火拳はルーキーだったから油断してたんだな」
「今やったらおれが勝てるだろうな」
「とにかく、リリナはおれが引き取る」
「それはダメだ!!」
完全に蚊帳の外にいたはずのスカした男の言葉に和やかムードだったおれ達は聞き逃さず声を揃えて阻止した。リリナちゃんを笑顔にできないような男には絶対に渡さん。