152

「さァ行こうリリナ」
「行かねェよ!お前大したことねェからどっか行け!」
「おれは君たちには聞いてない!しかも大したことないってなんだ!」
「いいからどっか行けよしつけェな」

しつこく食い下がるスカした男もおれ達に真っ向から言われ続けてきたせいかさっきまでのスカした表情はなくなって、眉間に皺が寄って小さく控えめだった口も今じゃ全開に開いてあーだこーだと諦め悪いようでうるさい。化けの皮が剥がれたな、これがお前の正体か。お互いに手は出してない、口だけ。だがまさに一発触発といったとこだ。

「リリナは渡さねェ!それにこの船の船長はおれだ!おれの許可なしに下船していいわけねェだろうが!」
「そうだ。てめェも同じ海賊なら分かりきったことだろうがよ」
「……そうだったな。しょうがない。今回はここで退散しよう。また迎えに来る、リリナ荷物をまとめておくといい」

ルフィとおれが言ってやるとさっきまで歯を剥き出しにしてた顔からけろっとまたあのスカした顔に戻って、おれの後ろにいるリリナちゃんを覗いた。

「誰がまとめるか!」

おれ達に背を向けてゆっくり歩いて行くスカした男にウソップとルフィが舌を出したり、歯をむいて追い払った。柄悪く唾まで吐き出しそうな勢いで。やってくれたってかまわねェよそれであいつが来ないんだったらな。


「何なんだあいつ……」
「しかし、変なもんにつきまとわれたな」

あいつが見えなくなったとこでやっと揃って肩を撫で下ろした。だがさっきまでの浮かれモードを取り戻すことができねェまま、話題はさっきのことですり替えられることなく続いた。

「リリナ、あいつにお前はやらんからな!」
「……うん」
「リリナちゃんもあんな奴につき纏われて大変だな。まァこんだけ可愛けりゃ、ああいう下衆な男の一人や二人いたっておかしくはねェな。ほんと、可愛いって罪だ」
「……」

後ろに隠れてたリリナちゃんに向き合うと三歩下がって目は合わせてくれない。……そろそろおれも限界ってもんが近くなってきたことに気付く。こんなに話せられねェなんてハートが砕け散っちまう。こんなにもおれのハートはリリナちゃんを欲してるのか、今までのことが幸せだったんだ。

「……てめェいつまでぐずぐず引きずる気だオイ。いい加減にしろよ」
「お、おいゾロ……!」
「確かにおれらにも落ち度はあるがそこまで引きずられんとこっちだって嫌になんだろうが」

なかなか口を開かないリリナちゃんに今まで黙ってたゾロが口を開いた。それを聞いてはっとして顔をあげてゾロと目を合わせたリリナちゃんは下唇を噛んで何かを堪えるような表情でゾロを見つめている。

「てめェクソまりも!リリナちゃんに乱暴な口きくんじゃねェ!」
「あァ?こいつが悪いんじゃねェかよ。いつまでも黙ってやがるから!」
「だからってなァ!」
「やめなさい二人とも。いくらルフィにだって裸見られたらそりゃショックよ。ゾロの言うことなんて気にすることないわよリリナ」

二人の間に割って入って睨みつけると、いつもこうやって対峙する時のような顔つきじゃないゾロの顔に沸々と苛立ちが湧きあがってきたとこでナミさんのいつも通りの声に宥められた。

「…………」

それからのリリナちゃんは誰とも話さないまま早々に船に戻ってしまった。いつもニコニコ笑顔を振りまくリリナちゃんが悲しそうにしている顔は見てられないし、見られないとなると格段に調子が悪くなる。あのクソまりもナミさんがいなかったら今頃三枚にオロしてやってたってのに……!