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夜ご飯を食べてから早々にキッチンから出てったリリナを自然と全員目で追ってから一息ついて紅茶を飲んだ。昼間からずっとリリナと口を利いてないサンジくんは脱力状態。ゾロに喧嘩ふっかけられてもいつもみたいに捲し立て合うような喧嘩にはならないで、サンジくんが一回だけ力のない返しをしただけでゾロもサンジくんも黙っちゃう。ゾロはさっき気持ち悪がって苦虫を噛み潰したような顔をしてた。

サンジくんがあんな調子だから夕飯もどんなものが出てくるのか心配してたけど、ちゃんとしたものが出てきて良かったわ。手順が身体に染み込んたおかげかしら。ただ話せないだけであんな風になっちゃうなんて、だらしないったらありゃしない!


「しかしよォ、何だったんだあいつ」
「まァでもあんた達よりはいい男だったんじゃなあい?性格は別として」
「ナミさんそんなこと言わないで!」

ウソップが食後のデザートとして出てきたカットフルーツを何個も口に運びながら話を切り出した。話を持ち出してきたのになんか興味なさそうに頬杖をついてるし。私の言ったことにすかさず食いついてきたサンジくんの顔を押し退けて私もフルーツをつまんだ。あんたはこんな心配よりリリナに謝ってきなさいよ、まったくもう。

「あんな奴に負けてたまるか。あんな変態に!」
「あいつも変態なのか!?」
「だがずいぶんリリナに馴れ馴れしかったな、あの男」
「ああ、何かありそうだったな。またリリナのこと狙ってくんじゃねェの?」
「そうね。卑怯な手を使いそう」

さっきリリナとあいつの話してたことを考えれば、あれだけで潔く手を引くわけがないわ。絶対また来るはずよ。さっきもリリナが言ってたしね、前に勧誘された時もしつこかったって。

「ねえサンジくん、早く謝ってリリナに許してもらったら?」
「それが顔を合わせてくれなくて……。さっきも謝りに行ったんだが返事がなくて。もう完全に嫌われちまったんだ、おれ……」

涙を浮かべて項垂れるサンジくんを隣にいたチョッパーが慰めるように肩を叩いた。そのまた隣のウソップが腕を組んで何かを考えるように唸ってるし、ルフィなんてフルーツ全部平らげちゃうし。こういう話になると男達はまったく使えなくなるんだから。

「まあ身体は女の命だって言うしな」
「それは身体じゃなくて髪よ」
「そういえばリリナは?」
「さっき外に出てったじゃない」
「様子見てくる」

風にあたりに行ったんじゃないかしら。私とは違って優しくルフィに教えてあげたロビン。脱力状態だったサンジくんが様子見てくるって席を立って出て行ったのをリリナのときと同じように目で追った。

「心配そうねサンジ」
「そりゃあ今日はまともに会話してないからだいぶ堪えてるんじゃないかしら」
「サンジのやつリリナには慎重だな」
「リリナはいいところでボケるから、ちゃんと順を追ってかなきゃ分かってもらえないのよ、あの子には」
「超直球じゃなきゃ分からなそうだしな」

本当に心配してるのかと聞きたいくらい面白がるように笑って言ったロビンにみんなでまた話し出した。こういう色恋沙汰には疎いルフィとチョッパーは付いて来られてないみたいで二人て瞬きを繰り返してる。

「彼も葛藤してるんじゃないかしら?ウォーターセブンでルフィがリリナはエースのことが好きだってバラしちゃったから」
「あれは悪かったって……」
「いやおれらに謝ってもしょうがねェだろ」

いつもは能天気なルフィが珍しく困ったように眉尻を下げて言うくらいだからだいぶ反省してるみたい。ルフィのことだからきっとリリナの本当の気持ちは分かってはないんだろうけど。でもなーんか違う気がするのよね……リリナを見てるとこう、何かが違うのよ。

「あれもこれもルフィが悪いぞ」
「女はどうでもいいときに頑固だな」
「ゾロ。あんた次リリナの前でさっきと同じ態度とったらはっ倒すわよ」
「……っけ」
「フフフ」

リリナに容赦ないこと言ったゾロを睨みつけてやれば下唇を持ち上げて渋った顔をした。なんてったってあの子は女の子なんだからあんなキツい言い方したらもっと塞ぎこんじゃうのはあたり前じゃない。

「まあでも、リリナのことだから許すタイミング逃して自分から何て切り出せばいいのか分からなくなってんじゃない?」
「そんなバカな……」
「バカなのよ、あの子も」

少し冷めた紅茶を飲んでサンジくんのあのどこの筋肉にも力の入ってない絶望感溢れる顔を思い出したら噴き出しそうになったけど、どうにか持ちこたえた。大事になる前にちゃっちゃと謝ってくれればそれでいいわ。まぁ大事になったらそれはそれで面白いけどね。なんてったって今の状況ってトライアングルじゃない。