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「リリナちゃーん」

クルーが揃ってるキッチンから一人抜け出して愛しのレディとかくれんぼを始めた。メリーからサニーに心機一転してからはリリナちゃんが隠れる場所の選択幅が広がった。探してくれと言ってるようにたまに一人になるリリナちゃん。展望台兼トレーニングルームに行ったときはクソ剣士が口裏合わせて匿ってたりしたから、あいつは本当にクソだ。

「どこに隠れちまったんだ?」

普段のことを考えながらいつも通りに探しているがなかなか見つからない。いつもとは違って、もう日が落ちてるから物陰に隠れていれば見つけにくいだろうってことに配慮して、いつも以上に目を凝らしてるんだがなかなか見つからない。探す場所が残り少なくなっていく度に嫌な予感というかこの船にはいないんじゃないかという考えが強くなって歩く足が速まる。

「……いねェ」

その嫌な予感はそのままおれに焦りを残して確信に変わった。レディ達の部屋を除いて全ての部屋とスペースを探したがどこにもいなかった。レディ達の部屋にいるかもしれないが、なんてったってあの部屋は我が海賊団の麗しいレディ達のプライベートルームであるからして無断で開けて入るわけにはいかない。

「サンジー、リリナいたか?」
「いねェ。リリナちゃんが船にいねェ!おいみんな出てきてくれ!」
「え!?」

焦る気持ちをそのままにして部屋の中にいる奴らを外に呼んだ。おれの声とリリナちゃんがいないと言った言葉に、冗談じゃないと理解したクルーがこぞって甲板に降りてきた。普段からどこぞの長鼻みてェに冗談ばっか言ってなくてよかったと片隅で思った。

「どうしたサンジ慌てて」
「リリナちゃんが船中探してもどこにもいねェんだ」
「散歩でも行ったんじゃねェの?」
「こんな暗い道だものそんなはず……」

集まれば少しは落ち着くかと思ったが、それが逆効果だとでも言うように焦りが増していく。どこ行っちまったんだリリナちゃん。おれそんなに酷いことしてしまったのか。いや確かに最低なことをしたと思う。タイミング悪いことにちょうどリリナちゃんの情緒が不安定なときだったから、余計だろう。今更自分のしたことに酷く後悔する。

「じゃあどこに……?」
「あいつだ。昼間のオルジっつー男。隙を狙ってリリナちゃんを連れ去ったんだ」
「あんにゃろうオヤジめ!!卑怯なことしやがって!」
「あっサンジくん待って!あてでもあるの!?」

昼間の男の名前があがった途端、一気に頭に熱があがって体が船から飛び出そうと動き出したが、あと一歩のところでナミさんの声に止められた。

「……ねェけど。リリナちゃんは望んで連れ去られたわけじゃねェ!すぐに助けに行ってやりたい!」

落ち着かねェんだ。あんな奴のとこにいると考えただけで居ても立ってもいられないくらいで、いつもは自然と手が伸びる煙草にすら頼れねェ。

「リリナだってそんな弱くないしそんなに焦らなくても大丈夫よ!もう少し明るくなってからでも……」
「だがあんな男と一緒だと思うとじっとしてられねェんだ!」

ナミさん相手だってのに焦りと大きくなる不安に駆られて声が大きくなる。頭では分かってても冷静になれなくて声を抑えることができない。ただ一刻も早くリリナちゃんのために動き出したい。

「勝手におれのクルー連れて行きやがって許せねェぞ卑怯男!!おれは行く!」
「でもリリナが!……自分から、ついてったとしたら?ルフィはどうするの?無理矢理連れてくるの?」

いきり立つルフィや剣士を省いた他の奴らにナミさんの不安の色が混じった声が投げかけられた。それを聞いていた全員が静まりかえって思いもしなかったことだったのか棒立ちになる。リリナちゃんが望んであの野郎のとこに行くなんて、そんなこと昼間のあいつへの対応を見てる限りあり得ない。

だがリリナちゃんは今この船に居辛く思ってるだろう。最近だって様子がおかしいし何か思い詰めてたところがあったし、それが引き金となってたら。そのせいで船を降りる事にはならないと思うが、おれが怒らせたとなると受け止め方も違ってくる。心配でならない。