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いつの間にか眠ってたみたい。ぼんやりする頭を少しずつ動かしながら周りをみると、見たことのない部屋だった。部屋というよりは小屋みたいで物置みたいなところ。あたしの頭の上にある窓から外からの薄い明かりが射しこんでる。そこで自分が連れ去られたことを思い出す。
そうだ、舵輪の前にあるベンチに座ってたらあいつが来て首の後ろつかれたんだ。

小屋を見渡そうと首を動かしたらずきっと痛んだのを反射的に手でおさえようとしたら何かに引っかかるようになって自由に動かせない。見てみるとロープできつく縛られてて少し動かしただけで痛い。部屋に一つだけある窓を見ると少しずつ明るくなり始めてた。船にいたときはまだ暗かったのに長い間気失ってたみたいだ。とにかく早くみんなのとこに帰らなくちゃ。

「やァ、起きたか」

縛られてない足で立ち上がろうとしたとき、おはようって陽気に言いながら部屋に入ってきたのはオルジ。気を失う前に見た顔を思い出した。

「無理矢理なんて卑怯だ」
「卑怯でもなんでも、そうしなくちゃお前は来てくれないじゃないか」
「こんなことする人といたくなんかない!解いてよ縄!」

こっちに歩いてくるオルジが少し怖くて威嚇するように声を張りあげて言ったのに、なにも効果がなかったみたいで目の前にしゃがんだ。いきなり大きい声を出したからむせて息が苦しい。

「悔しかったら得意の風でも巻き起こしてみなよ」
「っ……」
「出来ないのかい?」
「……そんな風に言って、ほんとは知ってるんでしょ……」

勝ち誇ったみたいに余裕そうに笑ってあたしがいつもそうやって風を起こすように指で丸を描くようにくるくる回してる。手を縛られてなかったらこんな奴すぐにどうにかできるのに。そう思うとすごく悔しい。

「何のことだ?」
「あたしが、手を使わないと風を起こせないって」
「あー、そうだったのか?初耳だったよ、これはツイてる。そうか、お前は手を使わなきゃ風は起こせないのか。なるほどな」

ワザとらしく言うオルジを睨みつければ、そんなの怖くないって頭を撫でられる。思わず手で振り払おうとして動いた手首に縄が食いこんで痛んでそれ以上動かせない。

「どうせっ、知ってたくせに!!」
「まあまあ、落ち着いてごらん。おれだってさっき気付いたんだ。お前を拘束して縄で縛った途端に風が止んだ。偶然かと思っていたが、お前が教えてくれたようなもんさ。墓穴を掘ったのはお前だ」

悔しい……すごく悔しい。あたしは一人じゃ何もできない。みんなの後ろでただ守られて、みんなの横に立っても機会を見計らっていいとこ取りしてきただけ。一度だって自分で切り開いた事なんてない。あたしはただずっと無力だったんだ……。手段を塞がれてしまえば自分では何も出来なくなる。

「仲間は来てくれるのか?そもそも何故あんな奴らと一緒なんだ。白ひげや火拳はどうした」
「……あなたには、関係ない」
「見捨てられたか?」
「違う!!……。」
「ずいぶんと頑なだな。おれが知ったところで何も起きやしないじゃないか、おれを仲間外れにしないでくれよ」
「だって仲間じゃないもん……」

こんな奴と仲間になるなんて、考えるのも嫌だ。少しも考えたくない。もうここから出たい。早くみんなのところに帰りたい。ごめんなさいって言いたい。きっと迷惑かけてる。ゾロがもっと怒る。……怒られるのは嫌だ。だから早く帰りたいのに、動かしても動かしてもあたしの手を縛る縄は解けない。

「そんなに動かしたら跡がつくどころか傷までできるんじゃないか?」
「あたしの、勝手でしょ」
「傷ができたらまた、白ひげのマークを重ねるのか?」
「なんでっ、そのこと………」
「初めて会ったときは足の傷が見えていた。その傷を隠すように白ひげのマークを彫ったんだろ?女の子が刺青なんてするもんじゃない」
「あたしのことはほっといてよ」

あたしを探ろうとしないで。どっか行って。なんでそんなこと知ってるの?傷のことなんて思い出したくないのに……。