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「さて、落ち着いたかい?答えを聞きに来たよ」
「…………」

少し時間をくれるってそう言ったのに、思ってたよりも早く小屋の中へ入ってきた。冷静になれる時間も考える時間もないくらい。でもあたしは何も考え直すことはない。怖いけど、この人のそばにい続けることになるなら腕切ってでもみんなのところに帰ってやる。手がなくても風を起こしてみせる。

「リリナ?」
「あなたの……仲間にはならない!」
「……じゃあ腕を切るんだね」
「そんな事、しない!」

あたしの前に立って見下ろしてくる目に負けないように出来るだけ目を鋭くさせて睨みつける。負けない。こんな男に負けない。

「何を言ってるんだ。二つに一つだってさっき言っただろう?」
「あたしは、海賊だ!自由に生きる。何にもない、敵同士のあなたに言われた通り、素直に従ったりしない!」
「だがお前はそうせざるを得ない立場にあることに気付いてないのか?」
「そんなのどうにだってなる!!」

叫んだらあたしの気持ちが溢れたみたいに一瞬の突風が起きてあたし達に距離を作った。腕を振らないと風は起こせない。そう信じてたオルジの顔が今の風を受けて戸惑った表情に変わった。

「な、なぜ……今。ば、馬鹿なことを!自分のおかれた立場を理解しろ!!」
「そんなものに負けない!!」
「おれは強い!お前よりも!だからおれに従え!」
「あたしより強い人なんかたくさんいる!」

自分で思っている以上にこの世界は広いから。あたしが波に飲まれて前半の海に戻っても今まで同じ景色は見てこなかった。これからだってそうだ。

あたしが声を荒げると向こうも負けじと大きくなって、言い合いが酷くなる。小屋の中にはどこからか風が吹き込んできて、立てかけてあった斧とかクワがバタバタ倒れ始める。

「けどあいつらはお前より弱いだろう!?」
「強いもん!知ったように言わないで!」
「知っている!弱いさ!一目見れば分かる事だ!火拳は確かに王の素質がある!白ひげは一番王に近い!だがあんなひょろっこい男に王の素質も強さもないだろう!見る目は確かなのか!?リリナ!!」
「あたしは一緒にいたい人のところにいるだけ。エースやオヤジはあたしにとって偉大な人!他のみんなだってそう!エースはあたしを導いてくれた人だし、オヤジはあたしを娘と呼んでくれる唯一の人!あたしは強さや見た目で決めてるんじゃない!ルフィや他のみんなだってあたしを前に進ませてくれる!みんな大事なの!……あなたには、分からない!!」

あなたはあたしのことなんて何も知らないくせに。知ろうともしてくれない。そんな人がオヤジやエースと並ぼうとするのはおかしい。強さなんて関係ない、一緒にいてつまらなかったらあたしはルフィ達とここまで来てない。

「なんでそこまであたしにこだわるの?あたしなんてこうして捕まっちゃえば何も出来ないような弱い人間なのに!なんで?」
「聞きたいのか?……聞かない方がいいと思うけど」
「……え?」

あたしがずっと感じていた疑問を勢いに任せて投げかけるとオルジがいつもの涼しげな表情に戻った。その変わり様になんだか嫌な予感がした。

「ここで会えて本当に運がいい。この先に何があるか知ってるだろ?」
赤い大陸レッド・ライン……」
「そう。そしてそれを越えるのにはシャボンディに行かないといけない。リリナもそこに行くんだ」
「……あなたとは、行かない……」
「そこに何があるか知ってるかい?」
「……何がある?」
「ヒューマンショップ。人類売買だ」

人類売買。聞こえた言葉を自分で繰り返して、砕いて砕いて飲み込む。それって人に値段をつけて売り買いするってことだよね?あたしが売られるって事?……まさか、あたしにそんな価値があるはずない。

「……あたしが……」
「そんなところに出される程の価値はないと思ってる?そんなことないさ。知らないだろうが君はそういう裏の人間から目をつけられてるんだ。謎が多いものほど魅力的なものはない!」
「………」
「無知な君は知らないだろうがただの人間の最低金額は50万ベリーだ。能力者となればその時によって金額が変わる。君は能力者と判明されてないがそれと同じような事ができる。だが仕組みは解明されていない。この謎がどれほどの価値を生むのか君には想像つかないだろう!?」

目をギラつかせて笑っているオルジはいつもの涼しげな態度からは想像できないくらい豹変してる。なんでこの人は笑ってるんだろう?そんなに面白い?人を売ることが?

「あたしの腕を切ったら……風は起こせなくなるよ」
「そう。だから君の選択肢は誰かに買ってもらう。それだけになった。すでに選択肢とも言えなくなった」
「………」
「あいつ等は助けに来られない。この先は今までみたいに無茶苦茶に突き通せばまかり通るような海じゃない。あいつらはここまでだ」
「………決めつけないでっていってるでしょ!助けられてるようじゃ本当にこの先やっていけない。だから……!」

能力に頼ってばっかりじゃダメなんだ。あたしだってやれる。手を動かして縄を外そうとしても痛いだけで緩む感覚がない。どんなにもがいても全然解けない。でも諦めない。あたしはみんなのところに帰るんだ。