160

おれに任せてくれと言ったのに結局全員揃ってしまったから、ぞろぞろワイワイ騒ぎながら船に戻ることになった。特にルフィが。

そんな中おれの隣を歩いてたリリナちゃんが突然バランスを崩して倒れた。と言ってもおれと反対側を歩いてたナミさんになだれ込むように崩れていったから倒れることはなかったが。

どうやら緊張が解けて微熱を出しているらしい。チョッパーが無理をさせないように人型に変身してリリナちゃんをおぶろうとしたところに割って入り、そっと背中に誘導して背負う。

「そういえばゾロのやつ、結局来なかったな」
「ああ、確かに」
「……ゾロも、来てくれたの?」
「おう。出発してすぐ林に突っ込んでったけどな!」
「まァあいつの方向音痴さを考えるとおれ達に付いてくるだけでも至難の技だよな……」

あんな奴どうせ意地でも帰ってくるだろうからどうだっていい。それより先に手首を怪我してるリリナちゃんを診てもらいたくてサニー号に着くといち早く医療室に連れて行った。チョッパーに休んでいてもいいと言われたが、痛々しい怪我をしているリリナちゃんが心配で何もする気にならないから同行した。もしかしたら表面上に出ていないだけで何か毒を盛られたから発熱したのかもしれないし、服に隠れたところに痣が出来てるかもしれない。

「サンジ考えすぎだよ」
「あいつ、リリナちゃんを売りに出そうとしてたんだぞ」
「それは、良かったよ。ほんと。リリナがちゃんと戻って来られて良かった。おれがちゃんとこの傷も、熱もしっかり治してやるからな!」
「……ありがとう、チョッパー」

ベッドに横になっているリリナちゃんはさっきよりも元気がなくなってきているのか笑顔が弱々しい。

「リリナが終わったらサンジも手当てするからな。切り傷だらけなのは同じだぞ」
「ああ」

見上げてくる虚ろな目は焦点が合っていないのか揺らめいては落ち着きがない。少しでも楽が出来るようしゃがみ込んで目線を合わせると、やっとおれを見て動かなくなった。
そして伸びてきた手がヒリヒリ痛む顔の傷に当てられると困ったように眉尻を下げた。


チョッパーが落ち着いているリリナちゃんを確認して、おれの手当てが始まった。そこで小屋に入ったときに感じた切られる感覚を思い出す。
前にも似たような状況に居合わせたことがあった。ウォーターセブンで海列車に乗ったとき、狭い車両の中でリリナちゃんが起こしたあの風。そのときはただ渦巻く風に翻弄された連中が座席や壁にぶつかるだけだった。今回は刃物でも仕込まれていたんじゃないかと思うくらいに鋭利なもので切られたような傷が出来た。向けられていたのはおれじゃないのに威圧感があって思い返して今更血の気がひく。



「サンジくん、仲直りできたみたいね」
「あ、まァ……」

部屋を出ると正面にナミさんが待ち構えていた。少し離れたところでいつも通りなロビンちゃんに比べて、ナミさんは至極楽しそうに笑っている。まるでおれが罠にかかるのを待っているような状態だ。本当にこの二人には敵わない。