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リリナちゃんはチョッパーに手当てと念のために身体に異常がないか調べてもらっていた。幸い手首の傷と、船の直前で転んだ為にできた擦り傷以外はどこも悪いところはなかったそうだ。


寝る前に何か腹の中に入れておかないとよく寝られないだろうからとリリナちゃんの為に手早くリゾットを作ったが、その間に部屋に戻っちまったようだ。部屋の外から声をかけるのもいいが、もしもう寝る体制に入ってたら申し訳ない。だがせっかく作ったから食ってもらいたい気もある。そわそわしてたらそれを見ていたナミさんから今だけだと入室の許可が下りた。

「リリナちゃーん。特製リゾットお持ちしたよ」
「はーい、どうぞー……」

初めての女部屋に心を踊らせながらドアをノックすると中からか細い声が聞こえてきた。本当にもう寝つくとこだったのかもしれないな。中に入ると部屋の奥にあったベッドで体を休ませているリリナちゃんが寝転んでいた体を起き上がらせておれを迎え入れてくれた。

「ベッドに寝転んだら身体がだるくなってきちゃってね……眠たくなってきたの」
「気張ってたもんが解けてどっと熱があがったのかもな。休んでたところだったのにごめんな」

という会話中にさり気なく額に手を当てるとじわっとした熱が伝わってきた。熱のせいか眠いせいかは分からないが瞼も重そうだ。

「美味しい匂いがするからそれ食べてから寝ることにするね」
「身体は?だるくねェか?」
「うん。せっかくサンジくんが作ってくれたんだもん。今食べなきゃルフィに食べられちゃうから」

目を細めていつもと違う笑い方をするリリナちゃんから一瞬大人のレディの雰囲気が漂ってドキリと心臓が高鳴った。水が飲みたいってリクエストに応えるために一度外に出るとチョッパーからリリナちゃんにのませてくれって薬を渡された。それを持って女部屋に戻ると器の中は空っぽだった。確かに作った量は少なかったがまさかこんなに早く平らげちまうとは思わなかった。

「あまりにも美味しくて、お腹も空いてたからかきこんじゃった」

一瞬惚けたおれを見たリリナちゃんは照れたようにそう言い、ごちそうさまとご丁寧に食後の挨拶をして満足そうに笑っている。リリナちゃんが持っていた食器を受けとって、その代わりにチョッパーから預かった薬と水を渡した。粉薬を口の中に入れて、水で流しこんで飲みこんだのを確認して空になったコップを受けとる。ひと息ついたリリナちゃんは大きい欠伸をしてからベッドに転がった。

「眠くなってきた」
「寝ちゃえばいいよ」
「サンジくんここにいるの?」
「リリナちゃんの夢にお邪魔しようかな」
「ふふ。サンジくんは本当に騎士ナイトだね」
「君だけの騎士ナイトだよ」
「え……」

無造作に伸ばされていた手におれの手を重ねると眠たいのか温かさが伝わってきた。眠くなると手が温かくなるって、赤ん坊みたいだとおかしくなって少し頬が緩んだ。

「おれ、すげェリリナちゃんのこと好きみたいだ」
「……うん」

真っすぐおれに向けられていた顔を控えめに枕に埋めて、でも視線はおれに向けたままで。その角度にまた心臓が高鳴って、拍車がかかる。

「ずっと……一緒にいたい。少しだって離れたくないんだ。だから……ずっと、おれのそばにいてほしい」

今の言葉がこの船の一味になってほしいという意味はきっとリリナちゃんに伝わったはずだ。こんなこと言えばリリナちゃんを困らせるだけだって分かってる。今までは何てことなかったのにここ最近ずっと一人で悩んでるのに。きっと向こうの船に帰りたいって思ってるんじゃないだろうか。なんとなく、そう思う。

リリナちゃんがこの船からいなくなるんだ。今はこんなに近くにいるのに。そりゃ好きな野郎がいる船に戻りたいと思うのはあたり前だ。わがままだって分かってる。だがいつかしなければならない選択ならば、おれへの気持ちと一緒に今ここで答えが聞きたい。リリナちゃんを守りきれないおれが、あいつに勝てるわけもないが。