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昨日は驚いた。最近リリナ元気ないなって思ってたらさらわれちゃって、帰ってきたときにはボロボロになってた。目のまわりが真っ赤で手首も真っ赤で普段の何もないようなものが嘘みたいで痛々しかった。おれ達が駆けつけたときにはサンジとリリナがくっ付いててサンジが慰めてた。そのおかげで元気になったみたいだけど。

昨日手当てしたときに包帯変えるから朝になったら医療室に来てくれよって言ったのにいくら待ってもリリナ全然来てくれないから、おれから行く事にした。部屋に入ったらリリナはベッドの上で寝てて、全然起きる気配がない。

「リリナ、おはよう。ちょっと起きてくれるか?」

ベッドにあがって真ん中で寝てるリリナの顔を覗き込んでみた。ちっとも動かないから肩を揺らしてみたけど、それでも起きない。全然反応しない。どうしようか考えることにしたら、ちょうど部屋にナミが入ってきた。寝てるリリナを見て呆れたみたいにため息をついてナミも肩を揺らしてみたけど、やっぱり起きない。

「……」
「リリナー?」
「……」
「起きないよーナミ」
「……これ、いつも通りだから。そのままほっといて大丈夫じゃない?」
「そういう訳にもいかないよ。この島暑くて傷口が緩くなりやすいし、包帯もそろそろ変えなきゃいけないんだ」

困ったな。リリナが朝なかなか起きてこないのは知ってたけど、まさかこんなに頑固だとは思わなかったよ。

「いつもどうやって起こしてるんだ?」
「ベッドから落としてるけど」
「やめてくれェ!傷が開いちまう!今回はそれ以外で頼む!」
「それ以外じゃ起きないからそれなのよ」

ナミにベッドから落とされるなんてそれだけじゃ済まない気がして、とっさにリリナの体を背中に隠して対抗した。ナミの目が怖い。見下ろしてくるナミの目が今にもおれを潰してきそうだ。でもリリナを守らなきゃベッドから降ろされちゃう。

「に、肉で釣れないかな?」
「ルフィじゃないんだから」
「サンジがサンドイッチ出来たってみんなを呼んでるわよ」

どうにか話をそらそうと、ひらめいた言葉を喋ってみた。おれもそう思ったけどナミの気をそらさなきゃいけない状況だったし……。イヤな汗が出てきてもうおしまいかと思ってたら、部屋にロビンが出てきてくれたおかげでピンチから逃げられた。ありがとうロビン。

でも状況は何にも変わらないぞ。おれが庇ってもリリナは起きなかったし、どれだけ深いとこまで寝に入ってるんだろう。大丈夫かな、リリナって自分で起きられるのか?


しばらく寝ているリリナを観察してたら、寝返りをうって仰向けに体勢が変わったから両手首の包帯を新しいのに取りかえた。手首の傷は昨日みたときと何にも変わらず痛そうだ。こんなに痛々しいのにリリナはなんにもないみたいに寝てるから不思議だよ。きっと痛いはずなのに。

でもこのキズ変なんだ。サンジが言うにはロープで縛られてたらしいから、この大きくて擦れたようなキズはきっとそのせいでできたんだろうけど、その周りにある細くてたくさんあるキズ跡は何だろう?それから一つだけ切られたようなキズがある。これが一番大きくて深いんだけど、原因がわからない。剣とか武器を持ってたらしいんだけど、見たときにはそれに血はついてなかったからたぶんそのせいじゃないと思うんだ。おれにはわかんないや。難しい。


早くすませちゃおうとちゃんと消毒して新しいキレイなガーゼを巻いてから包帯を巻いた。これでよし。

「おれがちゃんと治すからな」

寝てるリリナを見下ろして自分に誓うように呟いた。いつも笑顔で楽しそうにしてるから泣き顔は好きじゃない。好きじゃないのにやけに頭にこびりついてしまう。早く元気になって消してくれ。