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ダイニングのドアを開けて外に出るとナミとロビンが二人でいた。凄い勢いで出てきたから、ぶつかりそうになったけれど直前で止まった。

「どうしたの?」
「さ、サンジくんの!⋯⋯サンジくんにやられた!」
「……え?」

勢いのまま口にしたせいで言葉がまとまらず、二人は首を傾げてナミは眉間にシワを寄せる。何から話せばいいのかと慌ててあれこれ考える。

「ちょっとあんた来なさい」
「えっ、え……?」
「尋問ってところかしら」

ナミに腕を掴まれてムリやり部屋に連れこまれた。後ろからついてきてるロビンもニコニコしてて、尋問だなんて言うしなんだかいい予感がしないよ。部屋に入ってから二人は手際よく着替えとタオルを三つ用意した。

「何やってんの。あんたも準備しなさい。置いてくわよ」
「あたしも?」
「そうよ!」

そっかあたしもお風呂に入るんだ。ナミはそう言ってロビンと一緒に先に行ってしまって、急いでチェストにしまってある着替えを準備して追いかけた。サニー号に乗り換えてからお風呂がおっきくなったおかげで誰かと一緒に入られるようになったけど、まだ誰とも一緒に入った事なかった。


髪を洗うにも体を洗うにも少し動かしただけで手首が痛いから、今日は特別だからってナミが洗ってくれた。

「で、サンジくんと何があったの?仲直りはしたんでしょ?」

サンジくん。今あたしが一番苦手になった人。そんな急にその話しなくてもいいんじゃないかな。

「したと思う。あのときは、ちょっとカッとなっちゃって……」
「それでサンジくんに言うタイミングを逃してズルズルしてた」
「うん……」
「あら、本当だったのね」

あたしの隣で体を洗ってるロビンが優しく笑った。あたしにはロビンの言う本当がどのことなのかさっぱり分からないけど。

「で、さっき言ってたやられたって?」
「ああ……サンジくんと話すとドキドキしちゃうんだけど、それを知ってるはずなのにイジワルしてドキドキするようなこと言ってくるんだよ!」
「……ふーん」
「恋かしら」
「そうねぇ……」

ロビンもナミも納得したみたいにうんうんと頷いてる。二人してなんなんだ。恋ってなんだ。

「……恋?」
「そう」
「……あたしが?サンジくんに?」
「そうよ。それ以外に何があるの」
「………」

髪を洗うのはロビンがやってくれるらしい。ナミと交代してロビンがわしゃわしゃ泡立て始めたところで、しみないように目を瞑った。

それよりもあたしが知ってる恋とはずいぶん違うな。こんなに苦しくないしドキドキしないし、例えてみれば身体に栄養をもらってるような感じだったのに、今は逆に栄養を吸いとられてる感じだよ。息もしづらいし。

「恋ってなに?」
「……それ、いつか必ず聞かれると思ってた」
「今のリリナがまさにそれだと思うわ」
「本当?」
「だってドキドキするんでしょ?サンジくんの言葉に反応して気持ちが沈んだり苦しくなったり、嬉しくなったりするんでしょ?」
「うん……。でも恥ずかしいから一緒にいると耐えられない」
「それは人それぞれだわ」
「もう少ししたら一緒にいたいって思えるんじゃないかしら」

いつも以上にもこもこになった頭をシャワーで流して終わり。二人のおかげでキレイになったから、そのまま一足先に湯船に入った。

「あんた嫉妬したことある?」
「しっと?」
「ヤキモチよ。サンジが女の人と話してたりして、嫌な感じした?他の人と話してほしくないとかその場面見ててモヤモヤしたり、独り占めしたいとか」
「ひとり占め!?それはないよ!……だけどモヤモヤしたことならある、かも」
「それが嫉妬よ」
「そうなんだ……」

あたし嫉妬してたんだ。自分でも知らない間にいろんなこと経験してるんだなあ。モヤモヤしたのは、スリラーバークでサンジくんがナミのところに行っちゃった時、チクってなにか刺さったような痛みが心臓のあたりであってなんかちょっとサンジくんに当たりそうになった。サンジくんは悪いことしてないのに、これも恋してるからっていう症状ならなんだか良くないことだよね。だって悪いことしてない人に当たってしまうなんて。



夜中、最近は毎晩夜になると目が覚めるんだけど、今日も今日でぱっちり目が覚めた。自然とため息が出ていつも通り部屋から甲板に出た。毎日こうやって起きたときは船尾にあるお風呂の屋根の上がお気に入りの場所。海を覗けば小さい魚とかいろんな生きものがいて、空を見れば星がたくさん見えるだけでなにもないから余計なこと考えないでいられる。

でも今日は一人ではいられないみたいで、後ろの方からゾロが歩いてきた。

「ゾロも起きちゃったの?」
「おれはこれが日課だ」
「……いつもお酒のんでたの?」
「大体な。お前は気付いてなかっただろうが」

大きな一升瓶を片手にあたしの後ろにある柵にもたれるように座ったゾロを見て、視線を前に戻した。

「いつもは強請ってくるくせに今日は気分じゃねェのか?」
「……うん。いろいろ考えたいから」
「お前が?なにを考えるんだよ」
「……失礼しちゃう」

けらけら笑ってまたお酒を瓶のまま飲むゾロは少し酔ってるのかもしれない。でも今のって、それってゾロにも言えることじゃないの?いつもみんなに馬鹿にされてるのにさ。

「お前はなにも考えなくていいんだよ。ヘラヘラしてろ」
「なんで」
「いろいろ考えるから他に支障をきたすんだよ。イライラさせんな」
「……うん」

迷ってて気が沈んでたから今回あんな事になっちゃったんだもんね。確かにいろいろ考えたって答えは出ないや。モビーのみんなだってこっちのみんなだって同じくらい大事になっちゃったんだもん。すぐに答え出すことできないから、少しずつそれなりに考えてそのときが来たら決めよう。それまで後悔がないように今できることをやろう。

「もう怒ってない?」
「おれが根に持つと思うか?」
「うん」
「……てめェ」