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今日は忙しい日。ログが溜まってこの島から離れる準備ができたから、あとは出港の準備を整えるだけ。朝ごはんをゆっくり食べてみんなで準備を始めた。

みんなそれぞれ自分の持ち場について最終確認。あたしはお風呂をキレイにしてからお洗濯。チョッパーのズボンにナミとロビンの水着。男の人達のものはひとまとめに洗っちゃうけどナミとロビンのものは別で丁寧に。それからサンジくんのシャツも丁寧に。贔屓とかじゃなくて、アラバスタであたしにお洗濯を教えてくれたぐるぐる巻きのおばさんから、シャツは特別丁寧に洗わないといけないんだって教わったから。ちゃんとみんな平等に綺麗にしてるよ。平等、平等。


みんながお買いものに出かけてる間、あたしは一人で船に残った。考えたいこともあったから、なんとなく一人になりたかったのかもしれない。波の音を聞きながら水平線を眺めてたら少し眠くなってきた。ちょっと暑いからここで寝たら干からびちゃうだろうな。

「うおー!いっちばーん!」

部屋で寝ようかと思って甲板を歩いてたらいきなりルフィが出てきた。いつもみたいに明るく挨拶をしてから少しだけ寝ることを伝えようとしたら、どこか真剣な顔をしてあたしの前で止まった。と思ったら手をあたしの手のひらにあてて、自分のおでこと温度を確かめてた。

「どうしたの?急に」
「いやチョッパーがよ、もしかしたらリリナが急にぶっ倒れるかもしれないから気付いたときに確かめてくれって」
「大丈夫だよ」
「お前この前大丈夫だって言って遊んでやったら熱出しただろうが!あの後チョッパーとサンジに怒られたんだからな!しかも夕飯の肉減らされたんだぞ!お前知らねェだろうけど!」
「……ご、ごめん」

顔を赤くしたから怒るのかと思ったら涙を流して泣き出した。ルフィにとってご飯を食べることはとても大事なことだから、量を減らされて悲しかったんだと思う。ごめんね。


「ねぇルフィ」

今日のおやつをキッチンから盗んできてサニーの顔の上に座る。クリームが乗ったカップケーキを両手いっぱいに持ってきたからきっとサンジくんにはバレるだろう。けどルフィが言うにはあたしが共犯だから大丈夫なんだって。確かにサンジくんに怒られたことないけど、こういう悪いことしたら分からないよ。サンジくんが大事に大事に作ってくれたケーキなのに。

「ん?どした」
「もし、あたしがいたあの島にあたしじゃない人がいても仲間にしてた?」

ちょっと前から引っかかってたことを思いきって聞いてみた。船に乗せてもらってからカバのワポルってやつを追い払うために風を起こしたとき、ルフィはかっこいいからってあたしを仲間に入れるって決めてくれた。けどそれがあたしじゃなかったら。

こんなこと聞いてもどうしょうもないって分かってるけど、一度考えちゃうと解決するまでなかなか頭から離れない。

「リリナじゃない誰かって……んなもん考えらんねェよ。お前がいたんだから」
「もしもの話だから。ちょっとくらい考えてみて」
「えー……」

頭を使うことが嫌いなルフィは嫌そうな顔をしてから、それでも腕を組んで眉間にシワを寄せて考えてくれた。答え出てくるのかとざわついた。

「例えば……ボンちゃんがあの島にいたらどうしてた?」
「ボンちゃん!?なつかしーなァ!今何やってんだろうな!」
「話変えないでよお」
「なんだよー。いいじゃねェかちょっとくらい。……んー、まァボンちゃんだったら仲間にしてたな」
「………」
「でも、あの島でおれ達が見つけたのはお前だぞ。お前だったから仲間にしたんだ。他に理由はねェよ。んでお前も強ェしかっけェのは変わらねェだろ。お前が今船を降りるって悩んでたっておれは許さねェからな。何回だって言ってやる!お前はおれの仲間なんだ。もうお前の代わりなんていねェし、いたとしてもおれはいらねェよ!」
「……うん」
「おれはもうお前じゃなきゃいやなんだ!」
「……うん…!」

たぶんきっと、あたしを仲間にした理由が聞きたかった訳じゃないんだ。ただあたしを引き止めてくれる言葉が欲しかっただけ。ルフィはきっとあたしの欲しい言葉をくれるってどこかで思ってたところがあったから、ルフィに聞いたんだ。自分を安心させたかっただけなんだ。

「おれはお前を前の船に返すつもりはねェからな!」
「うん。……でも、あたし船長に話してみるよ。そろそろレッドラインに近いし、新世界に入ったらどうにかして船長と会ってみる。……たぶん新世界のもっと先の方にいると思うけど」
「おれも絶対そいつに会ってお前をもらうって言うんだ!ダメだって言われたら力づくでも奪ってく!」
「オヤジとは喧嘩しないで」

どっちも傷つくところは見たくないもんね。


涙を拭いて盗んできたカップケーキを食べて一息つくと、ちょうどみんなが帰ってきた。こっちに手を振ってくるサンジくんとチョッパーに振り返してお迎えをすると、何かに気付いたサンジくんが血相を変えて船に駆けあがってきた。

「リリナちゃん!なんで泣いてんだ!?どこか痛ェのか!?手首か?それとも気持ち悪くなったのか!?」
「ううん、なんでもないよ」

涙目のあたしを見た途端にサンジくんが慌て出して、加えてた煙草が床に転がった。おでこに手を当てて体温を確かめたり、手首を見て異常がないか確かめてくれた。あたしを見る目が真っ直ぐすぎて恥ずかしいけどなんとか笑ってみた。

「リリナの体調が大丈夫なら、日が暮れないうちに出発したいんだけど。誰か心残りある!?」
「あるわけねー!!」
「いや、私はまだ心残りが……」
「何言ってんだ!お前次の島こそ魚人島だぞ!」
「そ、そうでした!モタモタしてる場合じゃないですね!私、早く人魚さん達にお目にかかりたいです!」
「あたし人魚見たことあるよ!」

甲板にみんなで集まって魚人島への期待が膨らみ始めた。話の輪に入りたくてつい、自慢っぽくなったけど言ってみたらみんなのキラキラした目が集中した。

「や、やっぱり綺麗ですか?」
「うん!ココロのおばあさんみたいな人もいるん
「それはいい!」
「うんこは出るのか!?」
「聞くな!おれは聞きたくない!」
「うんこは出
「ああぁあ!言っちゃダメだ!おれは聞きたくない!」
「でもちゃんと予習しておかないと」
「いい!そんなのはいらない!」
「楽しみは後にとっておきたいんだろ」
「あー、そっか。じゃあ言わない!」
「生きてるんだもの、出るものは出るわよね」
「ロビンちゃーーん!!」

ルフィが聞いてきたうんこの話でヒートアップして、今度はサンジくんが泣き始めた。とにかく本当に出るのか出ないのか知りたいルフィと、それを阻止するサンジくんとあとウソップ。

「よーーし!行くぞ魚人島ー!!」

わいわい騒いでるみんなを置いていくようにルフィが大声をあげた。それに驚いて文句を言いながら、自分の持ち場につき始めた。

次はシャボンディだろうな。そしたら魚人島だ。みんな元気にしてるかな。何か変わったことあるかな?楽しみすぎて落ち着かないや。