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スリラーバークを出発したあと予定が狂って小さな島に着いちゃったから、落ち込んでたリリナの息抜きにって思ってたのに、変な男に捕まって危ない目に遭ったわよ。でもその一件があってからリリナは何故か元気になったみたいだし、結果オーライなんだけど。


あと何日かすれば赤い大陸レッドラインが見えてくるってときに畳み掛けるように天候が悪化して、息つく暇もなかった。どうにかレッドラインの下まで来れたと思ったけど、この先どうやって魚人島に行けばいいのかしら。潜水艦を出して下に潜ってみても手がかりになるようなものはないし。

「手っ取り早くリリナに聞きゃァいいんじゃねェの?」
「あ、そうか。あんた何で最初に言わなかったのよ!」
「だって海底潜ってみたかったんだもんよ。な」
「そうだそうだ!そんなあっさり答え知ったらつまんねェだろ!」
「あー、そうですか」

リリナなら魚人島に行ったことあるって前に言ってたから行き方知ってると思うんだけど、肝心なときに寝てるのよ。叩き起こそうとしたらサンジくんが止めに入ってきてできなかった。

「こんなに行き詰まるなら本当にリリナを起こさないと」
「気持ち良さそうに寝てるから起こしにくいわね」
「おーーい!リリナーー!」
「ちょっとルフィ!勝手に部屋に入らないで!」

ルフィが私達の部屋に入ろうとしたから止めに入ったところに海の中からおっきい海兎が出てきた。

「海の上でおれに勝てると思うなよ。Wゴムゴムの回転銃ライフルW!!」
「なんかデカく感じなかった……」
「オーズ見ちゃったからな!いっとき大丈夫だ。がははは」
「ん?何か吐いたぞ」

ルフィの一発で気絶して、海の中に消えていった海兎の口から何かが2つ出てきた。人っぽいのとちょっと変わった形をしたもの。

「ん?魚?」
「人!?違う!」
「まさか」
「ま!まさかー!」

甲板に向かって落っこちてくる黒い影には魚と同じ尾ビレがあった。その先に続くものは人間と同じ身体。まさかのまさか。私がその正体を思い浮かべたときにはみんな同じことを思ったみたいで釘付けになる。

その黒い影は甲板にいるサンジくんめがけて落っこちた。偶然なのか、サンジくんによって必然にされたのか分からないけど、とりあえず嬉しそうな声は聞こえた。

「わーっ!人間の人潰しちゃったー!ごめんなさい!大丈夫!?」
「いやいやいいんだ、そんなこと。それより君」
「尾ビレ……」
「まさか本当に!?」
「人魚!?」
「わーー!!びっくりしたいっぱい人間の人!!」

そのビックリした顔に私達もビックリするわ。その顔はあの子の十八番か何かなのかしら?

「消化されそうな所助けてくれてどうもありがとう!私海獣に食べられ易くって!かれこれもう20回くらい!何かお礼をしなくっちゃ!そうだ、タコ焼き食べる!?」
「タコ焼きー!?大好物!」
「ホント!?じゃあお一人500ベリーになります!」
「商売かい!」
「間違えちゃったーー!!」

商売人の根性が染み付いてるその子はお礼と言いながら私達からお金をもらおうとした。すかさず近くにいたクッションがツッコミを入れたんだけど、なんだかすごい独特なペースを持ってる子だなあって。


落ち着いたところで、人魚のケイミーを囲んで話をした。人魚とのまさかの出会いに当然サンジくんは飛んで喜んでるし、他のみんなもにこやか。

そんななかで、珍しくリリナが一人で起きてきた。人の倍寝てるっていうのに眠そうな顔をしてる。

「おはよー」
「おー今日は自分で起きてきたのか!」
「すげーな」
「人魚が来てるわよ」
「人魚?」
「あーっ!リリナちん!」
「んー?あ、ケイミー!」
「知り合いか?」

みんなそれぞれ感心したようにリリナに声をかけているとケイミーが少し声を大きくしてリリナを呼んだ。少しビックリしたけど、よく考えてみたらリリナは魚人島に行ったことあるって言ってたから、知り合いであってもおかしくないんだけどね。

「どうしたの?こんなところで。また海獣に食べられた?」
「そうなのー……まただよ!」

リリナがケイミーを茶化しながら隣に座った。本人の言ってた通り、ケイミーを知る人はケイミーが海獣に食べられやすい人だって知っているみたい。

「でもよかった。私達ちょうど進路に困ってて、聞きたいことが」
「おいナミ!タコ焼きが先だぞ!」
「あ、そうそう。お礼のタコ焼き!じゃあはっちんとどこかで待ち合わせしなきゃ」
「はっちん?」

背負ってた鞄の中から電伝虫を取り出したケイミーが誰かに電波を繋げた。一回目のコールが聞こえてすぐに相手側と繋がる音がしてケイミーが話し始めたけど、すぐに返事は返ってこないで不思議に思っていたところで返ってきた声にケイミーの顔が険しくなった。

『おーその声ケイミーか、モハハハ。わいが誰かわかるかい?ハチじゃないぜェ?』
「えー!?はっちんじゃないのー!?」
『マクロだよォー!毎度お馴染みズッコケマクロ一味だよォー』
『自分で言っちゃったよズッコケって!』
「マクロ一味?またー?」

掛けたはずの相手と違う声が聞こえてケイミーはまた驚く。マクロ一味って名乗った向こう側の声に隣にいたリリナが反応した。

「むっ!どうしてあんたがはっちんの電伝虫持ってんの!?」
『ハチの野郎をやっつけちゃったからに決まってんだろ!モハハハ!』
「うそよ!はっちんがお前達なんかにやられるわけないよ!」
『まァそうだな。いつもなら敵わねェが今回はなんと、あのトビウオライダーズと手を組んでいてねェー!モハモハハ』
『ニュ〜……ケイミー無事だったか、よかった』
「あー!はっちん本当にやられちゃったたの!?」
『ちょっと……油断したんだ。……おめーはここに来ちゃダメだぞ!ニュ、おれは一暴れしてからすぐ帰るから大丈夫だ』
「ハチ大丈夫?」
『ニュ?その声は……もしかして、リリナか?』
「そうだよー!久しぶりだね」
『そうかー……。声を聞く限り無事なんだな。おれはお前が海に流されたと聞いて一日寝込んだんだ。でもまあ無事でなによりだ……』

自分が危ない目にあってるのにリリナの声聞いて少し嬉しそうにするなんて馬鹿なんじゃないの。そりゃ相当心配してたのかもしれないけど。

『モハハハハー!おいケイミー、コイツはこのまま売り飛ばしちまうぜ!タコの魚人は珍しいから高く売れる。助けに来たきゃ来るがいい。ここはシャボンディ諸島44番グローブから東に5kmの海。人攫い組トビウオライダーズのアジトだ!』
『ニュ〜!ダメだケイミー来るんじゃねェぞー!』
『黙れコノタコ助!』

向こうのマクロ一味っていう奴らはご丁寧に居場所まで教えて電伝虫を切った。ケイミーには申し訳ないけどなんだか緊迫した感じがイマイチ伝わってこなかった。けど今の会話の中でいろいろと引っかかるところはあるのよね。

「タコ焼きは?」
「そんな事態かい!」
「ちょっと待って。今の電伝虫のはっちんて男の声。……なんか知ってる声の様な……。気のせいよね、そんなはずないか」

今までの航海で忘れかけてたけど、向こうから聞こえてきた声であいつのことしか思い浮かばないんだけど。考えれば考えるほど色が濃くなっていくような……。あんまり考えたくないけど。

「ごめん!ルフィちん、お礼のタコ焼きまた今度でいい!?私すぐに友達を助けに行かなきゃ!」
「えーー!?」
「ちょっと待ってケイミー。首つっ込んで悪いんだけど、捕まった友達の救出なら私達も協力するから。……あ、間違えた。コイツらが協力するから」
「お前は!?」
「そのかわり、あんたは魚人島に行く方法を私達に教えてくれるっていうのはどう?」
「え!?いいの!?ナミちん!はっちんの救出手伝ってくれるの!?ルフィちん」
「いいけど誰だ?はっちんて」
「私が働いてるタコ焼きの店主!世界一美味しいんだよ!ねっリリナちん!」
「うん!」
「そりゃあ一大事だ!!野郎共!命にかえてもタコ焼きを救出だ!!」
「おーー!!」

得体の知れない奴らに私が率先して挑むわけないじゃない。まずはあいつらに先手を打たせて様子を伺わないと。怪我したくないしね。